第33話 心構えと初戦闘
サーレンの勇者一行育成計画に悩んでいたら、いつの間にか3か月も経っておりました。
大変お待たせいたしましたm(_ _)m
王都の北門から出発する。
「まずは街道沿いに進むけど、昼前には街道を外れて、初めての魔物狩りに挑戦してもらおうかねぇ」
パン屋のマーサにもらったばかりのまだ温かい焼き立てパンをもしゃもしゃとほおばりながら何でもないような感じでサーレンが今後の予定を話し出す。
「魔物狩りですか?」
「楽勝よ!」
「ちょっと怖いです・・・」
サーレンの言葉に3人がそれぞれ別の反応を見せる。
先ほど3人にも焼き立てパンをねだられていくつか渡したのだが、若い3人はあっという間に食べてしまってすでに手元には残っていない。
そんな3人の様子にサーレンは少し眉を顰めた。
彼らを最終的に魔王を倒せるくらい強く育てなければならないわけだが、それだけではどうにもならない。彼らだけで旅ができるくらいの一般的な常識や、冒険者としての経験を積ませてやらなければ、魔王を倒すくらい強くなったとしても、旅の途中で悪い人間に騙されて殺されたり売られて奴隷に落とされたりして旅が続けられなくなるだろう。
金の稼ぎ方も知らなければ宿屋で宿泊できなくなり、食事もとれなくなり、結局悲惨な結末を迎える事になるだろう。
サーレンは重く溜息を吐く。
魔王を倒すくらいの実力まで育てるという途方もない道のりに、一般常識や冒険者としての心得、経験を加えていかなければならない。
サーレンは今更になぜこんな面倒な事を引き受けてしまったのか、晴れ渡った空を見上げながら後悔した。
「まずは戦うことになれないとねぇ。それに倒した魔物の素材を冒険者ギルドに持ち込んでから冒険者登録すれば、上位者の推薦と合わせて Fランクからでなく、1つ上のEランクからスタートできるからねぇ」
とりあえずサーレンは3人を冒険者ギルドで冒険者登録することを前提にちょっとした裏技を使うことにした。
何の実績もない新人を登録するときは登録試験などが必要になるが、先輩冒険者が後見人として登録時に新人が魔物を狩って持ち込むと、最初から魔物狩りのクエストを受けられるEランクから始めることができるのだ。
「あら、それはいいじゃない」
いとも簡単にヤリスが同意する。
自分が魔物を狩ることができると何の疑いも抱いていない。
そのことにサーレンは頭を悩ます。
「Eランクからスタートだとやっぱり有利なんですか?」
ユーリは真面目にその理由を聞いてくる。
頭で理解しようとするのは大事な事である。
ユーリの前途は期待できるとサーレンはホッとする。
「Eランクからだと、魔物の討伐依頼が受けられるからねぇ。Fランクだと薬草採取とか、街中でドブ浚いとか、雑用ばかりの依頼を受けてEランクへの昇格を目指さないといけなくなるからねぇ」
「そんな雑用やりたくないわよ!」
ヤリスが癇癪を起す。
癇癪を起す賢者・・・果たして使い物になるのか、サーレンは再び大き溜息を吐く。
「それ以前に、君たちは魔王を討伐しに行くんだろう? 正直言って雑用なぞやっている暇はないよ。すぐにでも魔物と戦って経験値をためて強くなってもらわないとね」
「私はもとから強いけどね~」
「どの面さげてそんなセリフが出るのかねぇ? あれだけ叩きのめされてもまだわからないのかねぇ?」
「ひっ!?」
一瞬ギロリとサーレンに睨まれたヤリスは自分のお尻を両手で押さえた。
どうやら特訓で尻を打ち据えられたトラウマを思い出したようだ。
「お、なんだかんだ言っている間に、魔物と遭遇したようだねぇ」
メインの街道から外れて森の中を進むことしばらく、森から1匹の狼が姿を現した。
「森の狼だねぇ。通常は群れて生活しているものだけど、珍しく1匹だねぇ。フォレストウルフというよりは、ロンリーウルフといった感じかな?」
「プッ!」
サーレンの軽口にヤリスが噴き出す。
だが、サーレンの目は笑っていない。
通常群れで生活する森の狼が1匹で森をさまよう理由。
それは群れから追い出されたという事。
追い出される理由としては、ボスの立場をかけて決闘し、負けた方が群れを去ることが多いという事をサーレンは知識として知っていた。
それだけに、はぐれフォレストウルフは群れのボスに負けたとはいえ、ボスと同等の力を持ちながら負けて気性が荒くなっている極めて危険な存在であり、初心者冒険者が決して舐めていい存在ではないといえる。
だが、それを初戦闘の3人に悟れ、理解しろというのはいささか酷というものだろうか。
サーレンは頭を悩ませる。
「グルルルル・・・」
サーレンの乗る馬車を見つけて、獲物と認定したのか、森の狼がこちらを見て姿勢を低くしてうなり声を上げる。
ロンリーウルフとバカにされて怒ったわけではないだろうが、かなり気が立っているのか、こちらを攻撃する気満々のようだ。
「早速討伐します!」
勇者ユーリが馬車から飛び出してロンリーウルフ・・・いやフォレストウルフの前に出ようとしたその時、
「そんな雑魚狼、私の魔法で一発よ!」
何と勇者ユーリの体勢が整う前に賢者ヤリスが魔法を唱えてしまった。
「マナよ! 敵を討ち滅ぼす炎弾となれ! <火炎弾>!!」
ゴウッ!
賢者ヤリスの放った炎弾が森の狼に襲い掛かる。
が、高ぶっていた森の狼はヤリスの魔術動作をみて、すでに回避行動に入っていたため、炎弾が直撃することなく、地面に当たり炎が飛び散る。
「「なっ!?」」
ユーリとヤリスが同時に声を上げる。
ヤリスは自分が放った炎弾が躱されたことに対する驚きだろうが、ユーリはもしかしたら自分の準備が整わないのに戦闘の先端を切ったヤリスの暴挙に驚いたのか。
森の狼は鋭く駆けると武器の整わないユーリをかわし、跳躍すると馬車の荷台から魔法を放ったヤリスの喉笛目掛けて襲い掛かった。
「キャア!」
「ヤリスちゃん!」
賢者ヨナが慌てて杖を持ち出し、防御を試みるが間に合わない。
だが、森の狼がヤリスの喉笛を噛みちぎる瞬間、
「ギャンッ!!」
森の狼の体が吹き飛び、地面に転がる。
その隙を見逃さずユーリが剣を抜き、森の狼に止めを刺した。
「はぁ・・・これは先が思いやられるねぇ・・・」
右手の平の中で小石をいくつかころころと転がす。サーレンはヤリスに噛みつく寸前の森の狼に向かって<指弾>で小石を高速ではじき出し、弾丸の様に命中させて吹き飛ばしていた。
サーレンは一息つくと、3人を改めて見る。
腰を抜かしている賢者ヤリスに、呆然としている聖女ヨナ、勇者ユーリだけが荒い息をして森の狼を仕留めて確実に息の根を止めたか確認していた。
ユーリ以外の2人のへっぽこ振りにサーレンは何度目かの大きな溜息を吐いた。
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