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第32話 旅立つ朝に

年・・・明けてた・・・(ショック)

今年も「おっさん魔術師」よろしくお願い致しますm(_ _)m


「はあ・・・」


夜明け前。

サーレンは長く住み慣れた長屋の玄関で座り込むと、厚めのブーツのひもを縛っていた。

いつもサーレンが通勤で使用しているボロくてペラペラの靴ではない。見る者が見れば、それは一流の冒険者が身に着けるであろうしっかりとした靴であるとわかる逸品だ。


「さて・・・」


両靴の紐を縛り、立ち上がったサーレンのその背中に誰かが寄り添う。


「サーレンさん・・・」


「フィレーヌさん、こんなに朝早くからどうしたんですか?」


まだ日も昇らぬ、暗闇の中長屋を出ようとしたサーレンの背中に額を押し付けるフィレーヌ。サーレンのとぼけた問いかけに少しの間無言を貫いた。


「ずっと・・・ずっと待ってますから・・・」


そして、紡がれる言葉。痛いほどに使わる、その思い。


「フィーナとも昨日約束しましたよね? 必ず帰ってくることって・・・」


昨日の夜、サーレンは色街に出かける前に夕食を一緒に取っていた。

その時、娘のフィーナちゃんから、「必ず帰ってくると約束するでしゅ!」と厳命を受けたのだった。


「ええ、覚えていますとも。なるべく早く帰ってきますよ」


「これ・・・今日のお昼に召し上がってください」


そっと布に包まれた箱のようなものをサーレンに差し出す。


「お弁当です」


「ありがとう。これを食べて元気に出かけてきます」


振り返ったサーレンは、お弁当を受け取ると優しく笑みを浮かべるのだった、







「よう、サーレン」


中央広場噴水前。

日の出前の薄暗い中、すでにトーラスは馬車を用意して待っていてくれていた。


「早いね。さすがだ」


「仕事だからな」


そういうとトーラスは馬車の後ろの帆を開けて、中の荷物を説明していく。


「・・・以上だ。お前さんのご要望通りにそろえてある」


「言うことなしだよ。完璧だ」


「俺の仕事を無駄にすんじゃねーぜ?」


「わかっているさ、必ず帰ってくるよ。約束だ」


そう言ってサーレンは笑うと拳を差し出す。

トーラスも拳を出し、サーレンの拳にコツンとぶつけた。


「土産はうまい酒ととっておきの冒険話で頼むぜ?」


「ははは、きっと吟遊詩人が歌い継ぐくらいの冒険話になるさ」


「本当かよ!?」


「私じゃなくて、勇者君たちがだけどね」


身を乗り出して驚くトーラスに、サーレン肩を竦めて苦笑した。


「なんだよ・・・サーレンも名前出してもらえよ」


「おいおい・・・、旅の途中までの引率担当兼御者の私に一体何を期待しているんだい?」


「はっはっは・・・まあサーレン無理するなよ。気をつけてな」


「ああ、十分に気を付けるとも」


そこへ眠い目をこすって勇者たち3人が到着する。


「ふああ~~~~おひゃようごじゃいましゅ、しゃーれんしゃん」


「おはよ・・・」


「おはようございます、サーレンさん」


勇者ユーリは半分以上まだ寝てないだろうか? 賢者ヤリスも寝ぼけ眼をこすっている。聖女ヨナだけがしゃっきりしていた。サーレンはこの先が思いやられるのであった。




そこへパン屋のマーサが旦那とともに現れた。

手には袋一杯の焼きたてパンを持っていた。


「本当に水臭いね・・・長旅に出るなら声くらいかけていきなよ」


そう言ってマーサは両手で抱えていた袋一杯のパンをサーレンに押し付ける。


「うわぁ! すごいや! 焼き立てのパンがこんなにいっぱい!」


焼き立てパンのすごくいい匂いにつられたのか、勇者ユーリの目は完全に目覚めたようだ。


「マーサさん・・・すまない、昨日は仕事の帰りが遅くてね。店が開いている時間によることができなかったんだ。朝も出発が早くてね・・・」


ボリボリと頭を掻くサーレンにマーサは目を吊り上げる。


「それが水臭いって言ってんのさ! トーラスが教えてくれなかったらあたしゃアンタを恨んでるところさ」


マーサに肩をバシバシと叩かれ、サーレンは弱った顔になる。


「はは、こっちは日持ちがするパンだから保存食に持って行ってくれ」


「トニー・・・すまない、ありがとう」


サーレンはマーサの旦那であるトニーに素直に頭を下げる。


「なーに、長年のお得意様にはまた帰ってきてパンを買ってもらわないとね」


「間違いなく帰って来るとも」


「アンタが帰ってくるまでパン屋をつぶさずに頑張るとするよ」


馬車の御者台に乗ったサーレンにマーサが笑いかける。


「サーレン、コイツを持っていきなよ」


サーレンは自分に飛んできた何かをつかみ取る。


「・・・ペンダント?」


「バルバロイ王国の紋章が刻まれたペンダントだよ。行く先の町で領主や駐屯する王国軍、王国関連施設なんかである程度優遇が受けられるようになるから」


「・・・ミランダ、君か」


そこに現れたのは『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長、『赤い閃光』のミランダ・フェルトエンドであった。


「アタイが王国とアンタたちのパーティとをつなぐ役目を請け負ったんでね。これからもヨロシク!」


ミランダの言い回しに、彼女がバルバロイ王国からのサポート部隊を率いる役目をおうのだろうと判断したサーレンは、ミランダとの付き合いが長いものになると感じた。


「・・・そうだ。今ここでミランダに会えたんだ。この手紙を王女様に渡してくれるかな?」


そう言ってサーレンは懐から手紙を取り出すと、ミランダに差し出した。


「・・・これは?」


「強くなる方法さ」


「強くなる方法!?」


サーレンの言葉にミランダが驚いた。


「クレイリア王女殿下に見せた後、彼女に説明してもらうといい」


そう言うと、サーレンは二頭の馬にムチを入れる。


「それじゃ」


ミランダや見送りに来たマーサたちに軽く手を振ると、馬車を出発させた。


「行ってきまーす!」


馬車の後ろの幌を開けて勇者ユーリが見送る人たちに手を振った。


・・・やっと魔王討伐の旅に出発した(苦笑)

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