第31話 旅立ちの準備
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「えっ!? 明日朝日が昇りだす頃に出発するんですか!?」
「・・・魔王討伐の旅に・・・」
「えっと・・・がんばります・・・」
サーレンは国王やクレイリアたちの前から立ち去ると、その足で一度訓練場へ戻り、へたばっていた勇者たち3人に明日の朝魔王討伐の旅に出ると伝えた。
「必要なものはすべてこちらで用意する。君たちは朝日が昇る前に王都中央広場の噴水前に集合すること。いいね?」
「「「は、はいっ!!」」」
「じゃ、帰って早く休むように」
極めて自部的に出発を伝えるとサーレンはその場を後にした。
「やあ、トーラス。元気かい?」
「おおっ、サーレンじゃないか! よっしゃ、早速カードの負けを取り返すとするか!」
「いや、すまない、。今日はカードじゃなく、仕事の話できたんだよ」
サーレンは頭をぼりぼりと掻きながら苦笑いを浮かべた。
「仕事・・・って、馬屋の俺にお前さんが何の様だい? お前さんから預かっているあのお前さんにどうにも似合わない巨馬のことかい?」
「いや・・・アイツは連れて行かないからそのまま預かっていてくれればいいよ。ちょっと違う事を頼みたいんだ」
サーレンがやって来たのは王都郊外にある馬屋である。乗馬や戦闘馬のほか、ここは馬車の扱いも行っていた。
「二頭立ての馬車を仕立ててほしくてね・・・金はここに」
じゃらりと音のする袋を取り出すとサーレンはそのままトーラスに渡してくる。
「・・・こりゃあ、えらく金貨が入っているが・・・」
「馬車の他に4人分で2週間分の食料と3日分の水・・・これは大樽1つでいいか。後、新米用のサバイバルグッズを3人前そろえておいてくれないか?」
「・・・サーレン、お前さんいったい何をやっているんだ? 王都の宮廷魔術師だったろ?」
「・・・まあ、その王命ってヤツでね・・・」
「いつまでにそろえりゃいいんだ?」
「明日の朝日が昇る前に中央広場に持ってきてくれないか?」
「あ、明日の朝だと!? 無茶言うなよ! 何でそんなに急いで・・・」
唖然とするトーラスだが、見つめるサーレンはなぜか苦笑いを浮かべるばかり。
「お、おいサーレン・・・帰って来るんだよな・・・?」
どこかいつもと違うサーレンに何とも言えない不安を感じたトーラスはいろいろと聞きたくもあったのだが、長年の付き合いからそれも無粋と言葉をのみ込んだ。だが、それでも帰って来るよな? その言葉だけは口からこぼれた。どうしてもサーレンの口から聞きたかった。
「・・・もちろん、帰って来るさ。それまでお前さんのカードの三連敗の貸し、忘れないでくれよ?」
「超特急の対応なんだ。一つ減らしておいてくれよ」
やっといつものサーレンの笑顔が見れたと、安堵するトーラスは冗談交じりにウインクする。
もちろん、と言葉を返すとサーレンはそのまま振り向き去って行った。
「え? 明日の朝旅に出るんですか!? お仕事で!?」
いつもの長屋に帰って来て、玄関で出迎えてくれた管理人のフィレーヌさんに明日早朝に旅に出ることになったと伝えると、フィレーヌは驚きを隠せなかった。
「サ、サーレンさんって、王国の下級役人だったはずでは・・・」
誰しも同じような驚きと疑問を持つのだなぁ・・・とサーレンはどうでもいい事に感心していた。
「王命でしてね・・・若いながらも有望な少年たちを連れて旅に出ることになりましてね」
やはり苦笑いを浮かべるサーレン。
そして、サーレンといい関係を気づけている人ほど、この苦笑の奥に隠された何かを感じ取っていた。
「サーレンさん、帰って・・・帰って来るんですよね?」
サーレンにずいっと詰め寄るとしたから覗き込むように、祈るような視線を送って来るフィレーヌ。思わずのけぞるサーレン。
「・・・ええ、帰ってきますとも。なにせ私はこの古ぼけた長屋が好きですから」
そう言って笑みを浮かべ、心配させまいと苦心したサーレンだったが、その努力も空しく、フィレーヌはサーレンに抱き着いて来た。
「ちょ、フィレーヌさん!?」
「なんだか・・・なんだかこのままサーレンさんがどこかへ行ってしまうような・・・もうここへは帰ってこないような・・・そんな気がして・・・」
サーレンの胸に顔を埋め、震えた声でフィレーヌは絞り出した。
そのうち、目に涙を目一杯浮かべ、不安そうな顔を向けて来るフィレーヌ。
思わず手を背中に回し、フィレーヌを抱きしめてしまいそうになるサーレン。
だが、そこは無駄にオッサンパワーを発揮。グッとこらえると、フィレーヌの両肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。私が帰って来るのはここですよ」
そっとフィレーヌを押し、自分はわずかに足を引く。
少し距離が開いたところで、言葉とともに笑顔を見せるサーレン。
「・・・待ってます。貴方がここに帰って来るまで、ずっと・・・待ってます」
目に涙を溜めてサーレンに抱き着くフィレーヌ。
再びサーレンの胸に顔を埋めるフィレーヌにさすがにサーレンも苦笑を浮かべながらも背中に回した手でポンポンと優しくなでるのだった。
「オババ、店仕舞い中の忙しいところ悪いんだけど」
「悪いと思ったら帰りな」
間髪を入れぬ返事を叩きつけたオババだったが、店の入口に立つサーレンの表情にピクリと眉を動かすと、サーレンを黙って見つめた。
いつだってこの『水晶の薔薇亭』にこの男がやって来るのは月末の給料日後だった。それがこんな月半ばの中途半端な、しかも閉店間近にやって来る・・・、通常ではあり得ぬ事であった。
「少し、カトリーヌと話がしたくてね」
「店の嬢に勝手に話しかけられても困るんだがね」
カトリーヌの気持ちは重々知っていながらも、建前上の台詞を返すオババに、じゃらりと硬貨の入った袋を見せる。
「店の営業時間はもう終わりだろうけど、あまり時間は取らせないから」
並々ならぬ真剣な表情に、いかにもこの男らしくもない雰囲気を感じるオババ。
それだけにサーレンに何かあると感じ取ることができた。
そこへ、二階から男女が降りて来た。
「どうかねカトリーヌ嬢、この後食事でも。もう遅い時間だが、知り合いのシェフに頼めばまだ店を開けてくれると思うんだ」
白ヒゲの貴族らしき老紳士と一緒に降りて来たのはカトリーヌ嬢だった。
笑顔を浮かべていたカトリーヌ嬢だったが、店の入口にサーレンが立っているのを見て驚いた表情を浮かべた。
「サーさん、どうして・・・今日?」
少し慌てたカトリーヌ嬢だったが、サーレンの表情を見て、やはりサーレンがいつもと違うと即座に感じた。12年以上前、初めて会ってこの身を助けられた時から一目惚れで、それでもこの仕事をしている以上、自分が彼に気持ちを伝えることはできないと頑なに心の奥に大切な気持ちをしまい込んできたカトリーヌ嬢だったからこそ、サーレンのわずかな表情の違いから、ただ会いに来てくれただけではない、そう感じとることができた。
「サーレン様、本日はいかがされましたでしょうか?」
恭しく頭を垂れるカトリーヌ嬢。
「ホッホ、それではお邪魔虫のワシは退散するとするかの」
さすがは真の紳士か、二人の雰囲気を察して食事に誘っていた老紳士がサーレンの横を少しだけ会釈をしながら店を出ようとした。
「カロッツェン伯爵様、今宵はお越しいただき誠にありがとうございました」
優雅にカテーシーを決めてお辞儀をするカトリーヌ嬢にカロッツェン伯爵と呼ばれた老紳士は振り向いて優しい笑顔を向けた。
「それではまた・・・いや、もしかしたらもうカトリーヌ嬢には会えぬかもしれぬか」
その言葉に頭を下げたままのカトリーヌ嬢の頬が赤くなる。
カトリーヌ嬢はそのまま頭を下げたまま黙って老紳士を見送るのだった。
「・・・それで、本日はどのようなご用件で・・・」
カトリーヌ嬢が小首をかしげてサーレンに問うた。
何か普段と違うと感じながらも、身受けをしてくれるなどという夢のような話ではないだろうとは何となくわかっていた。
「少し、君に伝えておかなければならない事があってね・・・」
「それでは、上の部屋でお聞きいたしますわ」
カトリーヌ嬢がいつもの二階の自室に案内してくれようとしたので、サーレンは懐から金貨が詰まった袋を取り出し、外の看板をガタガタと室内にしまい終わって戻って来たオババに渡そうとした。
だが、そのオババが受け取る前に、カトリーヌ嬢がその手を抑えて遮った。
「オババ様。これはお仕事ではありません。もし部屋代が必要であれば私がお支払いします」
凛とした表情で告げるカトリーヌ嬢にオババが優しく微笑む。
「お前さんの部屋さ。別に朝まで居たってかまやしないよ」
そう言ってカウンター奥のロッキングチェアにゆっくりと腰かけるオババ。
「ゆっくりしていきな」
そう言ってオババは笑うのだった。
・・・・・・
「お疲れさまでした」
ベッドに腰かけて背を向けるサーレンに、カトリーヌはベッドから起き上がるとそっと背中に頬を寄せて声をかけた。
つい先ほどまでサーレンの腕枕で夢心地だったカトリーヌはやっとのことでベッドから上半身を起こすと、頭の中にいっぱいだった幸せ気分を振り払うように頭を振ってサーレンの背中に抱き着いたのだった。
「・・・いつも貴方との逢瀬は、私が幸せになってばかり。お金をもらってのお仕事なのに、嬢失格ですね」
自虐的に笑うカトリーヌ。
サーレンは首だけ捻ると、カトリーナを見つめる。
「今日はお金払ってないから、いいんじゃないかな?」
「ですが、私、いつもと全然かわらずに貴方に愛されただけですし・・・」
あははと笑いながらサーレンの背に気持ちよさそうに身をゆだねるカトリーヌ。
「・・・明日、 朝日が昇るころ、半人前の3人を連れて旅に出ることになりました」
淡々と告げるサーレンにカトリーヌの手が震える。
「一つだけ、お願いが」
「・・・何でしょう?」
「ずっと・・・ずっとお待ちします。貴方がお帰りになるその日まで」
サーレンの背に添えられていたカトリーヌの手がサーレンの胸の方に伸ばされ、強く抱きしめる。
「たとえ・・・どんなに時がたっても、たとえ私がオババ様の様になっても、ずっと・・・ずっと貴方だけをお待ちします」
サーレンは心が締め付けられるような気がした。
サーレンは簡単に怒りに任せ、この王国を去ると国王たちに伝えたのだが、まだこれほどサーレンの帰りを信じて待つと言ってくれる人たちがいる・・・。
サーレンはじんわりと胸の奥が温かくなっていくのを感じた。
「ふふふ・・・貴女をオババの様にするわけにはいきませんからねぇ。さくっと用事を済ませて早く帰って来るとしましょうか」
サーレンは後ろを向いていた顔を前に戻すと、そっと天井を見つめた。
「そうですね・・・半年・・・はきついか。ですが、一年もかけたくないですしねぇ」
(ああ・・・いつもの飄々としたサーレンさんだ)
サーレンの背に頬を寄せながら、カトリーヌはホッと安堵するのだった。
そしてカトリーヌも自分の胸が温かくなっていくのを感じた。
いつもの雰囲気に戻ったサーレンが嘘をつくはずがない。
彼はきっと無事に私に会いに戻って来てくれる・・・。
カトリーヌは誰よりも深くそれを信じることができた。
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