表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/41

閑話5 クレイリアの慟哭

今回はチョー早い!(笑)


「ううっ・・・ぐすっ・・・うぐっ・・・うわ――――ん!」


クレイリアの自室。


王女殿下たるクレイリアの自室には品の良い調度品や高価な美術品、騎士としての活動を認められての勲章などが飾られており、整頓された美しい部屋であった。


であったと過去形なのは、すでにその面影が無いからである。

サーレンに別れの言葉を告げられ、呆然自失となったクレイリアは、泣きながら自室まで走って帰って来ると、着ていた鎧を脱ぎ散らかし、手あたり次第に投げつけ暴れまわった。


常日頃清楚且つ、洗練された騎士としての態度を崩したことのないクレイリア王女殿下の豹変ぶりに多くの者が驚いていたが、自室を破壊し、鎧から下着まで身に着けていたものを全て引きちぎるように投げ捨て、全裸になってベッドの上で膝を抱え長時間泣き続けているのを見て、周りのお付きの侍女たちがどうしてよいかわからずパニックになっていた。


なんとか侍女たちがクレイリア王女殿下を慰めようと声をかけようとクレイリアの自室に入ろうとしても、「入って来るな!」と扉越しに怒鳴られ、物を投げつけられてはただの侍女たちではどうすることもできなかった。


途方に暮れていた侍女たちの元へ一人の女性が歩み寄る。


「パメラ第一王妃様!」


そこへ現れたのはクレイリアの実母であるパメラ第一王妃であった。


「クレイリア? 大丈夫?」


「大丈夫ですっ! 放っておいて下さいっ!!」


パメラの声に大丈夫ではない勢いでクレイリアが答えた。

そのままパメラは扉越しにクレイリアに語り掛けた。


「ねえ、クレイリア。リオディール大神官は今クリスティーナ大聖堂の懺悔室に一人籠って泣きながら懺悔なさっているそうよ。 まるで貴女と同じね?」


「え?」


母の思いもよらぬ話に泣きじゃくって膝に顔を埋めていたクレイリアは顔を起こした。


「なんでも、女神クリスティーナ様より位の高い神の使徒らしいのね、サーレンさんという方。そんな方に無礼を働いてしまったと泣きながら詫びて祈りをささげているようよ?」


「神の・・・使徒?」


サーレンが神の使徒かどうか、それは明らかではないのだが、4柱を現世に召喚したサーレンの力が通常の者ではないとリオディール大神官が感じた結果、サーレンが主神級の神の使徒であるとの噂が流れてしまっていた。


「貴女の好きな人なんでしょ? なんだかとんでもない人を好きになってしまったのねぇ・・・」


パメラは扉越しに大きくため息を吐く。まるでクレイリアにも届けと言わんばかりに。


「お、お母様!? わ、わたくしはべべべ、別に・・・!」


「でも、貴女兵士の訓練場で泣きながら好きだと告白したのでしょう? サーレンさんに」


「はわわっ!? ど、どどどどうしてお母様がそれを御存じで・・・!?」


自室には誰も入れていないのでクレイリアが素っ裸であわあわしている姿を見られる心配はない。だが、クレイリアの顔は真っ赤であった。


「今回のサーレンさんへの対応、王国としても非常にまずかったと思うわ。私も先ほど報告を受けたばかりだけど、あの人にもどやしつけてやったわ。国の英雄になんて対応してるの!ってね」


「お、お母様・・・」


もちろんパメラ第一王妃のいう「あの人」とは自身の夫であるドネルスク国王の事である。

パメラは国王に対してはっきりと「今回の対応は間違っている」と伝えたのであった。


その英雄であるサーレンを見出したのは自分だ。そうクレイリアは自負していた。

サーレンが隠していたその実力を見つけたのだ。他の誰でもない、自分が。自分だけが。


誰よりもサーレンの事をわかって、誰よりもサーレンに寄りそうべきだ。

そう、クレイリアは考えていた。




だが、現実は違った。




自分が見出したサーレン・マグデリアという男を誰も理解しようとしなかった。

誰もがサーレンという男の表面だけを見て中身を理解しようとしなかった。

結果、表層に騙される大勢の者たちはサーレンの真価を見抜けず、正当な評価をしなかった。


さらに誤算だったのは、王国の貴族たちが魔王討伐という国家規模の作戦に利権を絡ませ、派閥で争った事だった。


そのため、サーレンの実力を認めさせ、討伐隊を引きいらせることに多くの障害が立ちはだかった。

挙句の果てに、その立場を引き受けてもらったにもかかわらず、貴族たちの利権のため、さらに邪魔立てするような連中が現れた。


「王国に魔王討伐を依頼されたのに、まさかその王国が足を引っ張るとは」とは、まさにサーレンの言った言葉通りであろう。


「カストル軍務卿も、他の腕を折られちゃった人達も、<大いなる癒し(ハイ・ヒール)>でキレイに治ったみたいよ? 魔法で治療しやすいようにケガさせたみたい。サーレンさんって強いのねぇ? 一度お会いした時にはそれほど強そうには見えなかったのだけれど」


「ええっ!? お母様いつサーレン殿とお会いに・・・?」


「貴女が泣きながら愛の告白をしたって聞いたから、どんな人かしらってこっそりと。ちょっと年がいってるけど、いい人そうだったわね」


「そうなのです! 口の悪い者はうだつの上がらぬオッサンなどとサーレン殿を悪く言うのですが、私にはとても思慮深く、優しい御仁に見受けられて・・・」


「そうね、いい人だと思うわ」


「で、でも・・・そんなサーレン殿が、この王国を見捨てて出ていく・・・と・・・、私とも二度と会わないと・・・うぐっ、ふぐうっ・・・うえっ・・・」


しまったと臍を噛むパメラ王妃。なんとかクレイリアを落ち着かせ元気を出させようと声をかけていたのに、話がまずい方向に進んでしまった。


パメラがどう声をかけようかと逡巡していたその時、


「クレイリアァァァァァ!!!!」


凄まじい怒声が響き渡った。


「何だ貴様!」

「ここをどこだと心得るか!」


ドカッ! ボグッ!


クレイリアら王族が住む階を守護する近衛兵たちの怒声が聞こえるが、わずかな戦闘音の後、静かになる。


「ひっ!?」


侍女たちがその場で腰を抜かし、廊下に座り込んだ。


それほどそこに現れた女性・・・『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長、『赤い閃光』のミランダ・フェルトエンドの怒気はすさまじかった。


「お、お待ちくださいっ!」


最も古参である侍女長がミランダの前に立ちふさがる。


だが、


「どけっ!」


肩をぐいっと横に押され、あっという間に廊下にしりもちをつく侍女長。

ミランダは扉の横にいたパメラ王妃には目もくれず、ノックもしないままクレイリアの自室の扉をけ破った。


「クレイリアッッッッ!!」


「入って来るなぁ・・・うぇ、うぐぅ」


膝に顔を埋め、泣きながら枕を投げつけて来るクレイリアにミランダは完全にキレた。


「クレイリアァァァァ!!」


その怒声に思わず顔を上げるクレイリア。




バシィッッッ!!




ミランダは右手で思いっきりクレイリアの頬をひっぱたいた。


「・・・・・・」


殴られた頬に片手を添えて、一体何が起こったのかと再びクレイリアは正面を向いた。

そこには凄まじい形相のミランダが立っていた。


「ふざけんなよっ! テメーら貴族どもの勝手な利権争いにサーレンを巻き込みやがって! だいたい魔王討伐っていう国家の命運がかかった作戦に自分の利益ばかり考える奴らが好き勝手してこの王国が守れると思ってんのかよ!!」


クレイリアはぐうの音も出なかった。ミランダの言っていることはまさしく自分も感じていたことだったのだ。


「それにサーレンのヤツ、この国を出ていくって言ったらしいじゃねーか! この王国の大損失だぜ!! 一体誰が責任を取るってんだ!! ヤツが敵にでも回ったら一体どうするつもりなんだ!!」


サーレンが敵に回る・・・。

クレイリアにはミランダが何を言っているのかすぐには理解できなかった。

今の今まではサーレンが自分の元からいなくなってしまう・・・そんなことばかり考えていた。そのサーレンが自分の敵として立ちはだかる・・・そんな想像などクレイリアは一ミリも想像したことがなかった。


「チッ・・・! いつまでもそうやって腑抜けていなよ。アタイはアタイでやらせてもらうさ」


ニヤリと笑うミランダ。


「貴女、まさか・・・!」


思わずベッドから立ち上がる。包まっていたシーツがはらりと落ちた。


「アンタなんてカッコしてんだい!?」


「はっ・・・あわわわわ!」


立ち上がってシーツが落ちたスレイリアはマッパであった。真っ裸である。素っ裸ともいう。


「早く何とかしな!」


「これはお見苦しいものを・・・」


慌ててシーツを体に巻き付けるクレイリア。


そこへドヤドヤと荒い足音が聞こえて来た。


「どこだ! 狼藉者は!」

「侵入者を捕らえろ!」


帯剣した近衛兵が数名クレイリアの自室に押しかけて来る。


「『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長、『赤い閃光』のミランダ・フェルトエンドだな? テメーもバカやったモンだぜ」


「ああ?」


いやらしく舌なめずりをした騎士がミランダの名を口にしたため、ミランダは剣呑な雰囲気で睨み返した。


「テメーは王族不敬罪で逮捕拘束されんだよ! これで『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長の座はオシマイってことよ! ひゃーはっはっは!」


いやらしく馬鹿笑いした近衛兵の一人。

どうやらミランダの出世をねたんでいるようだった。


だが、当のミランダ本人はニヤリと不敵に笑った。


「(まさか・・・ミランダのヤツ、この騒ぎの責任を取って『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』を辞める気か! そしてフリーの立場でサーレン殿を追う気だな・・・!)」


ここに来てやっと頭が回転し始めるクレイリア王女殿下。


「さあ、さっさとお縄についてもらおうか・・・」


「黙れッッッ!!」


急に放たれるクレイリアの怒声に近衛兵たちがピタリと止まる。


「ミランダは我が友である。友人が私の見舞いに手続きを踏まずに駆けつけてくれただけの事」


「おいおい・・・」


ミランダがクレイリア王女殿下の物言いに苦笑するが、クレイリア王女殿下の言葉は止まらない。


「しかしですね・・・」


「黙れッッッ!! 何より、誰が我が自室で帯剣を許したか!! 貴様らこそ王族不敬罪を覚悟せよッッッ!!」


「「「も、申し訳ございません!!」」」


慌てて帯剣していた剣を外し、前に置くとその場で跪く近衛兵たち。


「かといって、騒動を引き起こしたミランダにも過失はある」


ジロッとミランダを睨むクレイリア王女殿下。ミランダは一瞬嫌な予感がした。


「『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長の座は一時私が預かる! その代わり貴様には新たに魔王討伐隊の遊撃補佐隊の隊長ついてもらう事にする!」


「遊撃・・・補佐隊?」


思わずミランダは口にして首を傾げた。


「まあ、要は王都と魔王討伐隊の連絡係件サポート部隊だ。魔王討伐成功まで厳しい任務が続くが、文句はあるまい?」


ニヤリと笑うクレイリア王女殿下にミランダもニヤリと笑い返す。


「遊撃補佐隊の隊長の任、拝命いたします」


恭しく頭を下げるミランダに近づき、クレイリアはそっと耳元でささやいた。


「サーレン殿の直接サポートは貴女に任せます・・・。私は彼が安心して帰ることができるようこの国を改革します」


クレイリア王女殿下の確固たる決意が現れたセリフに思わずミランダは息を飲んだ。


「それまで・・・サーレン殿への抜け駆けは許しませんからね?」


そしてその後の言葉に思わず目を丸くして顔を上げるミランダ。


「それはチョット・・・どうかなぁ?」


ニヤニヤしながらわざとらしく首を傾げるミランダにクレリアがムッとする。


「ミ~ラ~ン~ダ~」


「おっと、アタイの事より、そろそろ自分のカッコをちゃんとした方がいいんじゃないのかねぇ、王・女・様?」


ニヤニヤしながら指を指されたクレイリアは自分がシーツ一枚を纏った裸であったことを思い出した。


「うひゃいっ!?」


ミランダ以下自室に入り込んだ者たちを押し出すとバタンと扉を閉めて再び自室に籠るクレイリア王女殿下。


「ま、多少元気になったかねぇ?」


頭をぼりぼりと掻きながらミランダがボヤく。


「まあ、クレイリアはいい友人を持ったものね」


「パメラ王妃!?」


すぐ横でころころと笑うパメラ王妃。

ここにパメラ第一王妃がいることに今頃気がづいたミランダは飛び上がるように驚いていた。


今後とも「おっさん魔術師」応援よろしくお願いします!

よろしければブックマークや評価よろしくお願い致します。

下の5つの☆を★にしていただくと、西園寺にエネルギーチャージできます(笑)

毎日ヘロヘロの西園寺に愛の手を~、皆様の応援チェックを頂けるととてもうれしいですv(^0^)v

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あまりにも速い更新… 俺でなくちゃ見過ごしちゃうね(≧∇≦) [一言] おっさん包囲網がまた新しく構築されている… だが構築できるのか?楽しみでありますΣ('◉⌓◉’)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ