第30話 伝えておくべき決意
またまたお待たせいたしました!
「そ・・・そんな・・・バカな・・・」
イザベラ女伯爵が腰を抜かしたまま呆然と呟く。
四方を神々に囲まれて顔面が蒼白になっている。
「神々が・・・4柱も・・・」
大神官リオディールは両膝をつき、祈り始めた。
「こんな・・・ことが・・・」
カストル軍務卿もわなわなと震えながら、それでも膝を屈せず立ち尽くす。
「我は問い奉る!!」
さらに朗々と言霊を紡ぎ出すサーレン。
誰しもがその一挙手一投足を見守った。
「そこなる者、わが身を魔族と決めつけ、この身を害さんとしたこと、真ありや!否や!」
サーレンの問いに神々が呼応する。
「否!」
「否!」
「否!」
東の柱、戦闘の女神セクーメトを皮切りに西の柱、愛の女神イシュータル、南の柱、魔法の女神イーシスと次々に否!と声を上げた。
そして、
「・・・否。そこの者は人間である」
「「「「「!!!!!!」」」」」
はっきりと、サーレンが人間と告げる北の柱、人間の女神クリスティーナ。
まさしく人族にとって、究極の信仰対象、その存在の頂点ともいえる人間の女神クリスティーナがサーレンを人族と認めたのだ。サーレンを魔族だ何だとケチつけるようなマネをしたのはまさしく人間の女神クリスティーナに弓引く行為と言っても過言ではない。
「ならば、敬虔なる使徒である我に弓引く者に断罪を!」
サーレンの言葉に各柱の女神たちが持っている武器を頭上にかかげる。
キィィィィン!!
膨大な光が神々の持つ武器から溢れだす。
「<審判の光>!!」
ドシャァァァァァァァァ!!
降り注ぐ断罪の光!!
「ヒィァァァァァァァァ!!!!!」
絶望の表情で降り注ぐ断罪の光を見上げたイザベラ女伯爵。
「<大赦>」
シュゥゥゥゥ
だが、その光がイザベラ女伯爵に届く直前、サーレンの唱えた<大赦>によって断罪の光は緩やかに消えていった。
「か・・・かか・・・か・・・」
かくかくとしながら、じょろじょろと粗相しているイザベラ女伯爵。
「感謝を」
両手を合わせ、魔力を込めると、4柱の神々がスウッと消えていった。
「・・・さて」
魔法陣は残っているものの、すでに<絶対魔法封印結界>の結界はサーレンによって破壊されている。
今は自由に魔法を使えるようになったサーレンだが、これ以上事を荒立てるつもりはなかった。
だが、言わねばならぬこともある。
小便を漏らし、腰を抜かして呆けているイザベラ女伯爵、同じく腰を抜かして気絶しているコンロン、その後ろにいるロクデナ子爵家長子、バガードアホゥ、タヨリナー子爵家長子、ボンボーンたちを完全に無視すると、国王やクレイリア王女殿下の方へ向き直った。
「サ、サーレン殿! これにはわけが・・・」
「結構です」
慌ててクレイリア王女殿下が何か説明しなければと声を上げるが、サーレンは素早くそれを制した。
「私が気に入らなければ、首にすればいいでしょう? 私が気に入らなければ自分たちで勇者を率いて魔王軍を討てばいい」
「あ・・・」
クレイリア王女殿下が言葉に詰まる。
「むうっ・・・」
ドネルスク国王が唸る。
「不敬な! 控えろ下郎な平民風情が!!」
近衛兵の一人が剣を抜いて叫んだ。
「不敬? 人を魔族呼ばわりして殺そうとしておきながら、何の説明もないのがこの国のやり方ですかねぇ?」
「いや、それは!」
クレイリア王女殿下が何とか説明を続けようとするが、サーレンはさらにつづけた。
「あまりにもバカバカしい。くだらない。もう結構だ」
「あ・・・」
再び言葉に詰まるクレイリア王女殿下。
「私はこの国を出ていく」
「そんなっ!!」
一番聞きたくなかった言葉。クレイリアの心が締め付けられる。
「・・・そうか。ならすぐに出ていくがいい」
「貴様ッ!!」
カストル軍務卿の出ていけと言う言葉にクレイリア王女殿下は激昂した。
「黙れ、ザコが」
揺らりとその距離を詰めてカストル軍務卿に近づいたサーレンは飄々とした表情を一変させ、鋭い目つきで睨みつけた。
「貴様っ! このワシに向かって雑魚だと!!」
「ただし、俺がこの国を出ていくのは魔王を倒してからだ。お前のような雑魚が王国騎士団のトップを務めているのだ。放っておけば、この国が魔族に蹂躙されるのは目に見えているからな」
出ていくとは宣言したサーレンだったが、クレイリア王女殿下から勇者を引き連れての魔王討伐を引き受けた以上、それだけはやり遂げるつもりだった。
「お前のような雑魚が勇者を引いては彼らもかわいそうだしな」
「き、貴様ッ!!」
カストル軍務卿が腰の剣を抜き放ち、唐竹割りの様にサーレンの頭上に右手で剣を振り下ろす。
だが、素早く振り下ろされる剣の左側に身を滑らせ、斬撃をかわすサーレン。
「!!」
ゴキィ!!
そのまま先の決闘と同じ技で、カストル軍務卿の振り切って伸びた右手を取ると、その肘を逆側にへし折る。
「グワアッ!?」
そのまま折った右手を地面の方に引っ張るとカストル軍務卿の体が前に崩れる。
その後頭部を打ち抜かんと、サーレンが右足を頭より高く振り上げた。
ズドンッ!!
サーレンは踵落としをそのままカストル軍務卿の後頭部に炸裂させた。
そのまま前のめりに地面に埋まるカストル軍務卿。
「き、貴様っ!!」
近衛兵たちがそれぞれ剣を抜いてこちらを向く。
「よさぬかっ!!」
だが、それをドネルスク国王が押しとどめた。
「・・・明日早朝、魔王討伐のために出立します。もうこれ以上この王城で無駄な時間を費やすことはあまりにもバカバカしい。勇者たちの基本育成すら終わっていませんが、まさか魔王討伐を依頼した王国が足を引っ張るとはね・・・」
少し溜息を吐くサーレン。
だが、その目には何も映っていないようだった。
「・・・それでは、もう二度と会う事もないでしょう」
冷たい目をしたまま、何も瞳に映らぬようにサーレンは振り返ると、ゆっくりとその場を去る。
その足が一度、止まった。
「残念ですよ、クレイリア王女・・・」
ぼそりとつぶやくと、そのままサーレンは立ち去った。
ドサリ。
クレイリア王女殿下はその場で膝から崩れ落ちた。
マズイ・・・。このままでは今年中に魔王討伐の旅にも出られない・・・!?
一応やる気を出して焦りまくっている西園寺にぜひとも応援お願いします!




