第29話 話が通じない時はより上位の存在からアプローチ
お待たせいたしました!
「初対面で人のことを魔族呼ばわりとは・・・あまりにもずいぶんなご挨拶ですな」
少しおどける様に言葉を返すサーレン。
「お前のような下賤の輩に挨拶する気などない」
けんもほろろの対応に思わずサーレンは苦笑した。
「とりあえずどちら様ですか? お名前ぐらい名乗ったらどうです?」
「お前・・・この方を知らんのか? 魔法省研究部門のトップ、イザベラ・フォン・シルクローディン女伯爵様だぞ?」
説明の後、ああ、貴様のような下っ端は知らなくてもあたりまえか、などと一人呟くコンロン。
「イザベラ・フォン・シルクローディンだ。死にゆく魔族とはいえ、誰に殺されたか知らぬのも哀れというもの。我が名を抱いて散りゆくがいい」
そう言って持っていた高級そうな杖を掲げるイザベラ。
「いや、お断りですけど。おたくの名前なんて抱きたくもない。自意識過剰が過ぎるんではないですかねぇ? 一度鏡をよく見ることをお勧めしますけど?」
貴族らしい巻き髪の美人だが、きつめの目つきが台無しだな、などと思いながら軽口をたたくサーレンにイザベラは青筋を立てながら睨みつける。
「魔族風情が調子に乗るなっ!!」
そう言って長々と呪文の詠唱を行うイザベラ。
どう考えても実戦経験があるとは思えない。
この状況、サーレンならば一足飛びに懐に入りイザベラを引き倒すことができるだろう。
だがサーレンはイザベラの魔法行使まで待つことにした。
「<爆裂雷撃>!!」
ドゴォォォン!!
巨大な雷撃が空から降りそそぎ、サーレンに直撃する。
「ふははっ! やった・・・やったぞ! ついにあの鬱陶しい雑魚を始末したぞ! 何せ<絶対魔法封印結界>内にいるサーレンのクソ野郎には魔法で防御することができないんだからなぁ!!」
コンロンが奇声とも言えるほどの大声を上げて喜ぶ。
「サーレン殿―――――!!」
サーレンを呼ぶ声はクレイリア王女殿下のものだった。
事が終わったと姿隠しの魔法が解除される。
魔法陣の横、広く取られた空間には姿を隠す魔法で多くの見物人がいたのである。
そこには国王以下大勢の権力者たちが集まっていた。
「なんと・・・魔族が紛れ込んでいたとは・・・」
教会の大神官、リオディール・ストレンガーは大きくため息を吐いた。
「ふざけるなッッッ・・・サーレン殿のどこが魔族だというのだっ!!!」
「く・・・苦しっ・・・」
クレイリア王女殿下の力で締め上げられた大神官リオディールが呻く。
「よさぬか、クレイリア」
ドネルスク国王がクレイリアを止めるが、クレイリアは止まらない。
「あれくらいの筋肉ダルマごとき、実力ある者なら身体能力強化などしなくてもたやすく倒せて当たり前だ!」
「だがそれは騎士団の様に鍛え上げられた者だけのこと。あのようなもやしのような魔術師が歴戦の勇士を素手で倒すなど、あり得ぬ事ですぞ!」
クレイリア王女殿下に声を荒げたのはカストル軍務卿だった。
自分の派閥から勇者を率いる者を選抜できなかったことで不満を持っていたカストル軍務卿はサーレンの実力を試すという建前の元、サーレンを排除する作戦を全面的に推し進めていた。
クレイリアたちが騒いでいると、濛々と立ち込めた砂煙が晴れる。
「まったく、一体なんだというのですかねぇ」
「ばっ・・・バカな・・・」
「あ、悪魔だ・・・」
「信じられん・・・」
イザベラ、リオディール、カルトルが呆然と呟く。
濛々と立ち込めた砂煙が晴れると、そこにはまさしく傷一つない、サーレン自身はもとより、古びたローブに焦げ跡一つないサーレンが姿を見せていた。
「自らの理解が及ばぬ存在を悪魔と勝手に決めつけて排除しようとする・・・まともな人間のやることですかねぇ?」
パンパンとローブの肩あたりを手で払うサーレン。
「化け物め・・・」
冷や汗を流しながらもイザベラがサーレンを睨みつけた。
「タチの悪い貴族だけかと思いきや、まさか国王様やクレイリア王女殿下までいらっしゃるとは・・・」
サーレンにじろりと睨まれ、クレイリア王女殿下がビクリと肩を震わせる。
「す、すまない・・・私は・・・」
大きな胸の前で指を絡めオロオロとするクレイリア王女殿下。
「それに軍務卿に教会の大神官殿・・・その他上位貴族の皆さんまで・・・。これは一体何のお祭り騒ぎなんでしょうかねぇ?」
段々と剣呑な表情で周りを見回すサーレン。
そんなサーレンの態度を気に食わない者たちが前に出る。
「サーレン殿。貴方は魔族の生まれ変わりか何かなのか? そうでなければ説明がつかないですぞ?」
俯き震えるクレイリア王女殿下を遮るように大神官リオディールが前に出た。
大神官リオディールはガーレン王国の王都ガレンバシアにあるクリスティーナ教最大のクリスティーナ大教会において実務のトップに立つ大神官である。
「自らの見識に沿わぬものはすべて排除するのですか・・・。それが神に使える者のすることですかねぇ」
サーレンは大げさに肩を竦め、大きくため息を吐いた。
「なんですとっ!!」
「サーレン、貴様が魔族の手先だという事は明白だ。そうでなければうだつの上がらぬ最底辺の木っ端役人が急に化け物の様に強くなるはずがあるまい。さっさとその正体を現すのだな」
大神官リオディールの肩をつかみ、その前に足を進めたのはカストル軍務卿であった。
ガーレン王国の『王国騎士団』のトップに立つ男であり、自らが伯爵家当主という上級貴族の立場でもある男である。
「ふははっ!」
「何がおかしいか!!」
サーレンが思わず笑ってしまうと、あっさりとすぐにでも切りかからんばかりに激昂するカストル軍務卿。
「いや、最低の木っ端役人だって、自分の実力を隠していることだってあり得るでしょう? 『能あるグリフォンは爪を隠す』というじゃありませんか。最底辺の木っ端役人が実力を隠していたという可能性をゼロだと断言するあなたは頭が固いなぁ、とね」
再び肩を竦めたサーレンにカストル軍務卿は嘲笑を持って答えた。
「ふははっ! それこそばかばかしい。ありえぬよ。何十年も無能と蔑まれた男が、実は魔王軍の十二将を倒す実力を持っていた? ありえぬ、ありえぬよ」
「その通りだ。それこそ、それほどの実力があればそんな無駄な時間を過ごすなぞありえん。いくらでも有意義な研究ができよう」
カストル軍務卿の言葉にイザベラ・フォン・シルクローディン女伯爵がいかにも魔法省研究部門のトップらしい見解を口にした。
「はあ・・・愚かな人間は自らが信じたい者だけを信じる。昔からある言葉通りですねぇ」
肩を落とすサーレンにカストル軍務卿が目を剥いた。
「愚かな人間だとっ!? やはり貴様魔族か!」
「いや、人間と口にしただけで何で魔族になるんですか・・・」
何度目かわからない溜息を大きく吐くサーレン。
実際サーレンは頭を抱えたくなった。
これほど話が通じないことがあるだろうか?
ちょっと実力がバレたかと思えば、魔王討伐に協力しろと言われ、仕方なく協力すれば今度は自分が魔族だ、魔王軍のスパイだと罵られあまつさえ命を狙われる。
あまりに理不尽だ。
さらになんやかんやと文句をつけて来る。
サーレンはだんだんと頭に来ていた。
「もういい」
ギンッ!
一瞬にしてサーレンの雰囲気が変わる。
今まではイザベラ女伯爵の魔法をはじいても飄々としたおっさんの雰囲気を崩さなかったサーレンだが、眼光鋭く睨みを効かすと、鋭い殺気を纏うような荒々しい魔力を展開させた。
「ううっ!?」
「こ、これは!?」
「正体を現したか魔族めっ!」
サーレンの変わりように罵声が飛ぶが、サーレンが再び睨むと言葉が止まる。
「何のために魔王を討伐するのか、誰のために戦わなければならないのか、実にばかばかしくなってきますねぇ。だがその答えの前に、私とそこにいるイザベラ氏が人としてどちらが間違っているか神に問いかけてみましょうか?」
鋭い眼光はそのままだが、いまだおっさん臭い口調のままのサーレン。微妙なギャップがあった。
「な・・・なんと不敬な!」
サーレンが神という言葉を口にしたため、大神官リオディールが声を荒げる。
だが、大神官リオディールの言葉を無視してサーレンは朗々と言葉を紡ぎ出す。
「主神女神アシュロハスターに願い奉る!!」
「なっ・・・・!?」
サーレンの言葉に大神官リオディールが冷や汗をだらだらと流しながら膝から崩れ落ちた。
「どうしたのだ大神官殿?」
カストル軍務卿が崩れ落ちた大神官リオディールに声をかけた。
「こ、この国は女神クリスティーナを信奉するクリスティーナ教が国教として信仰されています・・・」
「知っておる。それがどうしたのだ?」
「あの者が言葉にした主神女神アシュロアスター様とは、女神クリスティーナ様の上位神にあたる存在として、ごく一部の聖典に記載がある主神級の女神であらせられる存在なのです・・・」
「なっ!?」
「どうして・・・どうしてあのような冴えない風貌の男が、これほどの力を持ち、主神女神様の名を口にするのか・・・」
「どういう事なんだ!? 魔族のスパイではないのか!?」
「馬鹿なっ!? 魔族のスパイが主神女神アシュロアスター様の名を口にすることなどできるわけがないでしょう!!」
あまりの大神官リオディールの勢いにカストル軍務卿も二の句が継げない。
「我が意を受け、神々のゆるぎなき真実の剣を持ちて我が問いに審判の天秤を傾けよ! <審判の神託>!!」
サーレンの朗々とした声に呼応するように、イザベラの四方に次々と神々が姿を現した。
「な・・・!? 何だこれは!? げ、幻術なのか・・・?」
イザベラが狼狽しながら周りを見回す。
「東の柱、戦闘の女神セクーメト、顕現」
「西の柱、愛の女神イシュータル、顕現」
「南の柱、魔法の女神イーシス、顕現」
「馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ――――――!!」
「一体何が!?」
発狂したように叫ぶ大神官リオディールにカストル軍務卿が説明を求めた。
「通常<審判の神託>は神の使徒を顕現する魔法・・・いや、<審判の神託>自体が神聖魔法の最上級に位置する魔法なのですよ!!」
「な、なんだとっ!?」
「ですが、今顕現しているのは神そのもの! ありえない! こんなことはありえない! 神をこの世に顕現させるなど・・・それも1柱ではなく複数体も!!」
すでに3柱に囲まれ腰を抜かしているイザベラ女伯爵。
だが、さらにリオディールやイザベラには絶望が訪れる。
「・・・北の柱、人間の女神クリスティーナ、顕現」
「「「「「!!!!!!!」」」」」
北の柱として顕現した女神―――――
それはまさしくガーレン王国が国教として布教させているクリスティーナ教が信仰する女神クリスティーナであった。
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