第3話 色街にて
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「あら、こんなお時間からお出かけですか?」
先ほどもらった煮物を平らげ、すっかり闇の帳を下ろした夜の街へ繰り出そうとした俺に声をかけて来たのは長屋の管理人さんになったフィレーヌさん(二十二歳、シングルマザー、子持ち)だ。
「ええ、ちょっと・・・ああ、先ほどの煮物ごちそうさまでした。とてもおいしかったですよ」
俺は努めて笑顔で答える。煮物をほめて出かける行先はうやむやにしたい・・・。何せこれから色街に繰り出そうというのだ。堂々と行先を伝えるわけにはいかない。
「本当ですか!? サーレンさんのお口にあったのならうれしいです」
「ああ・・・煮物の器をお返ししなければいけませんね」
「あ、お気になさらず。また明日でも大丈夫ですから」
「そうですか・・・、ではお言葉に甘えて明日にでもお持ちしますね」
そうは言っても明日は週末の休みだ。
朝はのんびり起きてしまうだろうから、器を返すのは昼頃になってしまうだろうけどな。
「それでは、出かけてきますね」
よれ気味の靴を履き、長屋を出ようとする。
「いってらっしゃい。あまり遅くならないようにしてくださいね?」
フィレーヌさんのいってらっしゃいの声に見送られて長屋を出る。
ふと後ろを振り返った時に、手を振りながらも少しだけ悲しげな表情を浮かべるフィレーヌさんが気になってしまった。
「・・・俺が色街に繰り出すことが嫌・・・とか?」
色街に向かいながら先ほどのフィレーヌさんの表情を思い出す。
あれは、俺が色街に繰り出すことに不満を持っているような・・・。
「ま、自意識過剰すぎるか」
俺はフィレーヌさんの事は頭の片隅の方に一度追いやり、今日の夜の事を考える。
色街の入り口近くにあるいつもの屋台に顔を出す。
「親父さん毎度」
暖簾を右手で少し上げて屋台のカウンターに身を寄せる。
この屋台は立ち飲み屋で、椅子がなくカウンターは胸近くまである。
「サーちゃんらっしゃい。いつものかい?」
「やだな親父さん。俺がいつもの以外のモノ注文したことあったかい?」
「はっは、そういやサーちゃんはコレ以外注文したことなかったな」
そう言って安酒が入ったコップとチーズのかけらを乗せた皿を出してくれる。
どちらも百リーン。俺は銅貨二枚をカウンターに置く。
酒はエールではない。エールはコップなら銅貨二~三枚、ジョッキなら四~五枚は取られるからな。この安酒はとりあえずアルコール入ってますくらいの飲み物だ。
だが、この屋台のいいところはつまみにチーズがあることだ。
チーズは高級品だからな。なかなか下町では食べられる場所はない。
この親父さんはどうも伝手があるらしく、チーズの成型で出るかけらや余りを安く譲ってもらってくるようだ。おかげでこんな安酒にはもったいないチーズのつまみが味わえる。
「サーちゃん今日はどの店に顔を出すんだい?」
コップを拭きながら親父さんが俺に問いかける。
「今日はなんといっても先日給料日だったからね。一番奥さ」
俺は安酒をあおると、自慢げにウインクする。
「ピュ~~~、いきなり一月の給料全部突っ込んじまうのかい? ウチの安酒くらいいつでも飲めるくらい残しておいた方がいいんじゃないのかい?」
俺の生活を心配してか、常連客の足を運ぶ回数を心配してか、俺に自重というアドバイスをくれる屋台の親父さん。
「な~に、何とかなるさ。今日はコッチの報酬もつぎ込むつもりでね」
そう言って俺はくたびれた上着の内ポケットからチャラリと鎖につながれたプレートを取り出す。
「サーちゃんそういや冒険者ギルドに所属していたんだっけ」
「そう。下級官僚の給料だけじゃ満足に色街に通えないからね。まあ万年Dランクだからね。大したことはできないんだけどさ」
俺は下級官僚として働く傍ら、冒険者ギルドにも登録している。
休みの日に薬草採取や、雑用仕事などを受けて日銭を稼いでいるのだ。
「はは、サーちゃんも苦労してるんだね」
「人間苦労しないと色街なんて通えないよ」
苦笑しながら、安酒を飲み干すとチーズのかけらを口に放り込む。
「ごっつぉさん。また来るよ」
「毎度、よい夜を」
親父さんの笑顔に手を振って俺は屋台を後にした。
色街は縦に長くできている。メイン通りの左右に店が立ち並んでいるが、入り口に近いほど安い大衆店が立ち並び奥に行くほど高級店になる。
「おや、サーちゃん。今日は寄っていかないのかい?」
激安大衆店の「寄ってっ亭」のオババだ。
「悪いね。今日は奥狙いなんだ」
「へー、いつもカツカツでウチでさえ値切ろうとするサーちゃんが珍しい」
「うぐっ」
オババめ、痛いトコを突きおってからに。
「あーら、サーちゃん今日はアタシと遊んでかないの~」
オババの後ろから顔を見せたのはこの店の従業員であるロレンタ嬢だ。たぶんほぼ俺と同い年。トークも仕事ぶりも文句ないが、いかんせん体型が酒樽という問題点がある。
「はっはっは、今日は奥の方へ行くんでね」
通りの奥を指さし、ジャケットをビシッとさせる。
「あら浮気者ね? でもいいわ。どうせ月末になったらロレンタちゃ~ん、これだけしかないんだけど、何とかお相手お願い~って泣きついてくるのはサーちゃんの方だしぃ」
「うぐっ!?」
ロレンタ嬢の言葉が俺の胸にグッサリ刺さる。
確かに何度か言ったことのあるセリフだし。
オババやロレンタ嬢からニヤニヤした顔で見送られながら俺は通りを奥へと足を向けた。
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