第25話 受けたからにはその目的まで最短で
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棍を床に打ち付けたまま仁王立ちして彼らを睨みつける。
俺の視線に目をそらすことなくユーリ少年が立ち上がる。
「よし、いつものボクたちのフォーメーションで戦おう」
「あのオッサン自信満々だったから全力の魔法放っても死なないでしょうし」
「じゃあいつものバフかけるよ?」
ぼそぼそと小声で作戦を練る勇者たち。三人とも同じ村で育ったって話だったけど、幼馴染で仲がいいのだろうな。前世でボッチだった俺には少しまぶしすぎるぜ・・・おっと、現世でも基本ボッチだったな。俺は。
勇者たちの基本スペックは高い。
それだけに俺が勇者たちを寄せ付けないことに国王様たちは驚きを隠せないようだ。
クレイリア王女殿下はなぜかどや顔でうんうんと唸っているし、ミランダは「やりぃ!」と一人で騒いでいる。
「神よ!この者たちに祝福を!<祝福>!」
まず聖女ヨナのバフ魔法が飛ぶ。神聖魔法<祝福>は非常に使い勝手の良い補助魔法だ。身体能力が全体的に10%上昇するため、攻撃力も防御力も速度も一割上昇するイメージだ。一瞬が生死を分けるこの世界で10%の上昇は馬鹿にできない。
「行きますっ!」
そう言って再び真正面から突っ込んで来るユーリ。勇者というのは学習しないのかと思いきや、俺の目の前で急停止し左右にフットワークを使いながら連続で斬撃を振るってきた。
その斬撃をいなしながら反撃を加えようとすると、即座に剣で防御態勢をとる。どうやら俺を引き付けての時間稼ぎが目的のようだ。距離を置いてヤリスが呪文の詠唱を唱えているのが見えた。
「離れて!」
呪文の詠唱が終わったヤリスが叫ぶ。なるほど、ヨナの補助魔法をかけたユーリが俺を釘付けにしておいて、ヤリスが一撃必殺の呪文を用意する。
悪くない戦術だ。惜しむらくは離脱のタイミングを大声で伝えたことと、選んだ魔法の特性だな。
「<火炎大嵐陣>!!」
俺の頭上をぐるりと舞う炎の竜が弾けて炎の嵐となり吹き下ろす。
ザコを広範囲で焼き尽くすには便利な魔法だが、兵士の訓練場で使うような魔法ではないわな。
このままだと国王様やクレイリア王女殿下もあっつい思いをしてしまうぞ?
ゴオオオオオオッ!!
「あらあら、焼け死んでいないといいのですけど?」
余裕をかまして魔法の杖をくるくると回しているヤリスの背後に着地すると、俺は昆をビリヤードの構えのように構える。
「ヤリスちゃん、後ろ!」
ヨナの声に振り向いたヤリスの腹に昆を突き刺す。
「げほっ!」
「ヤリスちゃん!」
その場で涙を浮かべておなかを抑え崩れ落ちるヤリスに回復魔法をかけようと走り寄ってきたヨナの足を引っかけて転ばせ、その背中を足蹴にして踏みつける。
「あうっ!」
「どうした? これが魔獣との戦闘ならお前たちは頭から丸かじりにされて死ぬ。盗賊なら犯されてさんざんなぶられた後奴隷として売り飛ばされるだろう」
涙目でガタガタ震えるヤリス。自分の最大魔法がまったくダメージを与えていないことに心が折れたのか、震えていた。
ちなみにクレイリア王女殿下や国王たちには風の障壁を張って熱が伝わらないようにしてある。
ある程度コントロールされていたとはいえ、<火炎大嵐陣>なぞ訓練場で放つんじゃないっての!
下手したら周りの人も熱風でやられちゃうよ?
「そうか、お前たちはこの程度が」
そう言って俺はにやりとあくどい笑顔を浮かべてヤリスの頭上に棍を掲げた。
「ひいっ!」
「やらせないっ!」
その瞬間、ユーリが光に包まれたかと思うと、ドンッ!と凄まじい踏み足の音を残して高速で突っ込んできた。
勇者の称号を持つ者が得るという特別なスキル<限界突破>だな。
追い込まれたら行けるかと思ったが、やはりユーリ少年は将来有望のようだ。
その力は通常の二倍以上に引き上げられるという。
「はああっ!」
俺はユーリ少年の渾身の一撃をかわすと、その右腕をつかんでひねるように投げ落とした。
「ぐはっ!」
超高速で移動してきたユーリをその速度を生かして床にたたきつける。相当なダメージだろう。
ユーリを包んでいた光が消える。
だが、叩きつけられた時は限界突破中の能力上昇状態にあっただろうから、純粋なダメージはそんなにないだろう。
今は力を使い切ってダウンしているといったところか。
「な、なに・・・今のユーリの力は・・・」
「勇者の称号を持つ者だけが得る、<限界突破>という特別なスキルだな。ごく短時間だけ地力を跳ね上げることができるけど、使い終わった後は動けなくなるほどの疲労が襲うから使いどころが重要だろうね」
呆然とするヤリスに俺は説明してやった。
「あ・・・あんたそれを知ってて・・・」
「彼、優しそうだからね。君たちが絶体絶命に陥れば殻を破って真の能力を振るえるようになると思ってたよ」
そう言うと俺は足蹴にしていた聖女ヨナちゃんを抱き起し、背中をぱんぱんと払ってやる。
「大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です・・・それにしてもおじ様、すごくお強いのですね・・・」
少々頬を赤く染めて上目遣いに見つめてくる聖女様。大丈夫か?今の今まで君の背中を踏んずけていたのだが・・・。おっと、大丈夫大丈夫、俺はこんなお子様には反応せん。反応しない。しませんったらしないのです。大事なことだから二回・・・いや、三回でも四回でも言っておく。
「立てるか?」
俺はヤリスにも手を伸ばすが、ヤリスは「ふんっ!」とそっぽを向いて自分で立ち上がろうと杖にしがみつく。
だが、足腰に力が入らないのか前のめりに倒れてきたので、優しく抱きとめてやる。
「あうう・・・」
俺の腕の中で顔を真っ赤にして俯くヤリス。
さっきも言ったが、もちろん俺様はお子様には反応しない。これがフラグならべきべきにへし折っておこう。お子様とのフラグは不要なり。
「クレイリア王女殿下」
「な、なんだろうか?」
うんうんとどや顔で俺を見ていたクレイリア王女殿下が急に話しかけられてびっくりした顔をした。そしてなぜか頬を赤く染める。貴女までもか。
「この三人は今後一週間そのジョブにあった専門の人間に預けて朝から晩まで徹底的に基礎をみっちり教えてください」
俺はオデコに手を当てて頭を軽く振る。
クレイリア王女殿下は一段と胸を張ると赤く染めた頬を振り消すようにムンッと顔に力を入れた。
「わかった。一週間でよいのだな?」
「次の週からは午前中を基本の修行に、午後からは私がパーティの連携を含めた戦術トレーニングを行います」
「ほう、サーレン殿自ら指導するか」
「ええ、一刻でも早く魔王を討伐してのんびり暮らしたいので・・・」
「・・・サーレン殿は欲が無いな」
解せぬ。クレイリア王女殿下が困ったやつだと見つめてくるが、俺は欲深いぞ? 俺の自堕落生活を邪魔するなと欲望全開で話しているじゃないか。
「それはそうと、彼は鍛えれば相当伸びると思いますよ? しっかり基礎から叩き込んでくださいね?」
「・・・ふむ・・・」
クレイリア王女殿下が考え込むようにユーリ少年を見た。
「勇者の特別スキル<限界突破>は良くも悪くも「底上げ」がメインの効果ですから。元々が鍛え上げられていないとあまり劇的な効果が望めませんからね」
そういうと俺は棍を訓練場の壁にある武器立てに戻す。
「では私はこれで。一週間後また彼らの様子を見に来ますから、それまでにみっちり鍛えてくださいね?」
俺はクレイリア王女殿下にすっと頭を下げると、訓練場を後にした。
サーレンが去った訓練場。
「クレイリアよ・・・」
国王がつぶやくように娘の名を呼んだ。
「お父様・・・」
クレイリアはにこりと優しく微笑んだ表情を父である国王に向けた。
「お前の言う通りであったな。特に勇者ユーリの最後の一撃、<限界突破>といったか? 正直ワシの目では動きをとらえることはできなんだ。それが一瞬にして切り返され、気がつけば床に伸びているのはそこにいる勇者ユーリの方であった」
ブルレッド侯爵などは言葉も出ない。サーレンがあれほどの実力を隠し持っているなどとはかけらも思っていなかった。もしかしたらと思っていたローズクォーツ伯爵やドモン伯爵も、まさかこれほどの実力とは夢にも思っていなかった。何せ、魔法らしい魔法すら使わずに勇者ら三名を危なげなく完封して見せた。
とくに勇者の最後の一撃と、賢者の最後の炎の魔法。どちらもあれを全く寄せ付けず対応できる人間が果たしてこの国に何名いるだろうか。
それも、<火炎大嵐陣>が放たれた時、国王様を守ろうと障壁の魔法を慌てて準備しようとしたローズクォーツ伯爵よりも早く完璧に風の障壁で守られた。戦闘中にこちらの様子まで気を配れるほどの余裕があったことにローズクォーツ伯爵は改めてサーレンの能力に驚かされていた。この場にいる誰もがサーレンの実力を目の当たりにして驚いていた。
「さすがサーレン!」
一人ガッツポーズをしているミランダを除いてだが。
「しかし・・・彼は魔術師のはずでは・・・」
ローズクォーツ伯爵が顎に手を当てて首をかしげる。
「あ、あの体術で魔術師なぞありえん!」
「ありえないというなら、彼の実力自体がありえないほどなんですけどね」
実際に魔王軍十二将軍の一人、悪魔王グレゴールと戦ったローズクォーツ伯爵だからこそ肌で感じるサーレンの底が見えない実力。
「身体強化を使っているようにすら見えなかったのですが・・・」
「まあ、サーレン殿に実力があるとわかっただけでも私としてはホッとできるのだが」
クレイリア王女はやっとサーレンの実力が認められたと胸を撫でおろした。
「それよりも、サーレン殿の指示に従い、勇者ユーリたちを鍛え上げる教官役を選任せねばならん。この後諸侯らには打ち合わせにご協力いただきたい」
諸侯の了解を得たクレイリアは改めて国王に向かいなおる。
「国王陛下。魔王討伐の主力パーティを率いる者の人選の件、サーレン・マグデリア殿を推したく存じます」
恭しく頭を下げるクレイリア王女殿下。そんなクレイリアに国王は優しく娘を見るような笑顔で返事をした。
「許可する。魔王討伐のパーティ統率及び勇者たちの教育係、サーレン殿に一任することにする。そして見事魔王を討伐できるよう、王国も全力でサポートする!」
「「「おおっ!!」」」
こうして魔王討伐隊とそれをサポートする国軍が準備されることになった。
ついに「魔王討伐への旅」編始まりました!
あらすじでも書きました通り魔王が倒されるのは確定した未来ですが、そこまでの紆余曲折はどのようなものになるのか・・・お楽しみいただければと思います。
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