第24話 涙には、勝てない。
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ヤバイ! 一国の王女を泣かしてしまった!? ど、どどど、どうしよう・・・?
「い、いやいや・・・そんな嫌いとかそういうことではなくですね・・・」
「わ・・・私は貴方にこの命を・・・そして貞操を救われた。夢でも何でもない、現実に。貴方の背中で守られたことがどれほど嬉しかったことか・・・どれほど心強かったことか・・・」
俺の退職願を握りしめたまま大きな胸に両手をうずめる。いや、俺の退職願が・・・。
自身の胸の形が変わるくらい強く両手を体にひきつけ、まるで祈るような仕草で俺を見つめるクレイリア王女殿下。
「貴方のことが好きなのだ・・・すべてを捨ててこの身一つででも貴方のもとに行きたいのだ・・・。でも魔王軍が襲来するかもしれないこの時に国を捨てて貴方の元へ行くわけにもいかない・・・。私は国民を見捨てることはできない・・・」
止めどもなく流れる涙を拭うこともなく、自身の心の内を吐露するクレイリア王女殿下。
その気持ちが嘘偽りのないものであることは、いやが上にも伝わってくる。
「私は浅ましい女だ・・・。貴方が上げるであろう魔王討伐の功績を持って父上に貴方との婚姻を申し出るつもりだった・・・。だが、貴方が王城の務めを辞してまで私の前から姿を消したいと・・・思うほど嫌われているとは思っていなくて・・・」
おうふっ! そうじゃない。そうではない。
確かにクレイリア王女殿下は面倒だと思っているが、嫌いではない。あくまでその立場が面倒だからノーサンキューなだけで。
「すまない・・・私の身勝手な思いを・・・押し付けてしまって・・・」
涙が止まらぬまま、うつむいてしまうクレイリア王女殿下。
一同が呆然とする中、ミランダだけが両手で頭を掻きむしって、「しまった! まさかここで先を越されるとは!?」と悶えている。どうした?
だが、泣き止まぬクレイリア王女殿下を放置して、それじゃ、どうもとこの場を立ち去れるほど俺は強くない・・・さすがに。
負けた。正直、クレイリア王女殿下がこんな俺にこれほど本気だとは思わなかった。そして国民の安寧を慮る優しい王女様であることもはっきりと知ることができた。
まあいい、俺の自堕落生活は一時凍結だ。どうせ魔王軍とやらが攻めてくれば山奥でだってのんびりしていられないんだしな。魔王とやらを片付けてから再びゆっくりと自堕落生活に勤しむことにしようじゃないか。
俺は「はああ~~~」と大きくため息を吐き、髪の毛をバリバリと掻きむしる。
「・・・一つ、条件を」
俺はもう一度大きくため息をつくと、王女様の前に右手の人差し指を立てる。
「なんだ・・・ろうか・・・? 私にできることなら、なんでも・・・」
ぐしぐしと涙を拭いて顔を上げるクレイリア王女殿下。かわゆし。危険なほどの乙女力。おっさんには眩しいです。
「魔王討伐完了後はやれ貴族に叙爵だの、王家に取り込みなどといったマネはご遠慮願います。私は下町の長屋でのんびり生活できればそれでいいので」
「・・・約束しよう・・・できるだけ、希望がかなえられるようにガンバル・・・」
できるだけかい! でもクレイリア王女殿下からすればそれが精一杯か。
まあ、それでいいか。
「・・・わかりました。それでは勇者君たちを預かって魔王討伐の任務承ります。魔王討伐までですからね? それ以降は王城での勤めを退職してのんびり生活しますので」
「うむ、わかった! ありがとうサーレン殿! 魔王討伐のあかつきにはサーレン殿がのんびり生活できるように私も頑張るとしよう!」
いや、王女殿下が何を頑張るんですかね? 急にうきうきして微笑まないでくださいね?
「いや、なんだ急に・・・貴様一体どういうつもりだ?」
訝しげにブルレッド侯爵がこちらを見るが、もう相手にしない。
魔王討伐と決めたからには一分一秒を無駄にしたくない。
勇者たちとの顔合わせに呼ばれたこの場所は兵士たちの訓練場だ。
多分顔合わせの後で勇者たちの実力を試せるようにこの場所を選んだのだろう。
実戦経験の多いクレイリア王女殿下らしい判断だ。豪華な部屋で顔合わせしたってどうせ移動してその力を見極めないと教育のしようがないしね。
見回せば、壁には兵士たちの訓練用に使う木製の武具がさまざま用意されている。
俺はその中から長さ二メートルの棍を選ぶと、片手で風車のように振り回す。
「は、速いっ!」
驚くブルレッド侯爵を横目に、俺は訓練場の中央近くまで移動すると、勇者たちを見つめる。
「今聞いていた通りだ。私はクレイリア王女殿下より君たちを教育、訓練し、魔王討伐できるようサポートする任を受けた。受けた以上はその仕事をこなす。
さっさと魔王を片づけてのんびり自堕落生活を満喫したいので、手っ取り早く君たちに一人前になってもらうために超スパルタ特訓を行うことにする」
振り回していた棍をビタリと止めて棍の先端を勇者たちへ突き出す。
「今から君たちの実力をテストする。全力で、私を殺すつもりでかかってこい」
「こ、殺すつもりって・・・」
「いいの? おじさん灰になっちゃうわよ?」
「ちょ、ちょっと・・・」
「君たちと私との戦力差はアリとドラゴンくらいの差がある。心配は何もいらないよ・・・というか、棍で君たちをぶっ叩くから、魔王討伐とかやめて田舎に帰るなら今のうちだよ?」
「バカにしないでよね!黒焦げになって後悔するといいわ!」
「じゃあボクも剣を・・・」
激高するヤリスに合わせて、ユーリも戦闘テストに前向きなようだ。
「君は腰の剣を使いたまえ」
「えっ!? でもこれは真剣ですから・・・」
「当たり前だろう、だれが腰におもちゃの剣をぶら下げているんだい? 私は言ったはずだよ? 魔王討伐をさっさと終わらせるとね。君は木剣で魔物と戦うわけじゃないだろ?
キミの全力を見るのに木剣なんてまどろっこしいことをしているほど私は暇ではないよ」
「し、しかし・・・」
「やってみればわかる。三人同時にまとめてかかってこい」
「ふざけないで! マナよ! 彼の敵を焼き尽くせ! <火球>!」
ゴッ!
いきなり真正面からヤリスは火球を放った。魔力の練りも甘くまだまだ質の良い火球ではないが、早さだけはまあまあだな。
「むんっ!」
棍を袈裟切りに一閃。火球が二つに割れて掻き消える。
「ま、まさか・・・」
「はあっ!」
ドンッ!
強烈な踏み込みから剣を繰り出すユーリ。こちらも真正面からの一撃。速度だけはそれなりだが。
ビッ!
「かはっ!」
わずかに身を反らしての跳ね上げの一撃に耐えられず俺の後ろに吹き飛ばされるユーリ。
この一撃はユーリの突進力をそのまま利用した「空気投げ」みたいな一撃だ。大した力も込めていない。
ビュンビュンと回した棍を地面にカツンと打ち付ける。
「君たちの実力はそんなものかね?」
「はあっ!」
吹き飛ばされた背後からそのまま突進して剣を振るうユーリ。
その一撃を交わしながら棍で剣の腹を打ち据えてバランスを崩す。
「うわっ!」
即座に返しの棍でユーリの肩に一撃を入れる。
「がはっ!」
さらに追撃。ユーリはその一撃に気づき、剣を持ち上げて防御しようとするが、それよりも早く棍を振りぬき、ユーリの背中を打ち据える。
「ぐはっ!」
ヤリスの足元まで飛ばされて地面に転がったユーリをヨナがわたわたと慌てながら駆け寄った。
「神よ、その御手にてこの者の傷を癒したもう。<回復>!」
パアアッと白い光がヨナの手から発せられ、ユーリを包み込んだかと思うと、唸っていたユーリがなんとか起き上がった。
「す・・・すごいや・・・サーレンさんの操る棍がどこから襲い掛かってくるのか全然わからないよ」
「あのおっさん、私の<火球>を棍の一撃でかき消しちゃったわよ・・・」
「あの・・・みんなで力を合わせないと絶対に勝てないです・・・」
「言ったはずだがね、三人まとめてかかってこいと」
クルクルと片手で回した棍を床にガツンと打ち付けると、俺は三人を睨みつけた。
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