第23話 勇者たちとの顔合わせ、引き返すなら今しかない!
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「ユーリです! 戦士のジョブを持っています! 勇者の称号を授かりました!」
「ヤリスよ。魔導士のジョブを持っているわ。称号は賢者よ」
「ヨナです・・・。神官のジョブになります・・・。称号は聖女です・・・」
「この三名が貴殿に預ける魔王討伐の要となる者たちだ。しっかり鍛えて本懐を遂げてほしい」
なんでも十六歳になったばかりの子供三人組が元気に挨拶してくれる。
その横でにこやかな笑みを浮かべて無茶振りをしてくるクレイリア王女殿下。
金髪を肩に届かない程度に伸ばしている中世的な顔立ちのユーリ少年が勇者。俺を見てわくわくしている。なぜに?
茶髪のくせっ毛を肩下まで伸ばしているのがヤリス。気の強そうな少女でこちらをジトッと見ている。絶対俺の事を胡散臭いオッサンだと思っていそうだ。
深緑のストレート髪を腰まで伸ばしているのがヨナ。白い神官着が似合う少女だ。聖女らしい。でもオドオドしてキョドっている感じ。俺のようなおっさんに驚いているようだ。
なんだろう、なんでこんなことになったんだろう?
俺はクレイリア王女殿下の顔を見る。
にっこりしたクレイリア王女殿下の顔には何も感じ取ることはできない・・・。
いや、それは嘘だ。お前に任せれば安心だ・・・位の笑顔だ。解せぬ。何故。
どうしてこんなことになったのか・・・時を戻そう。
いや、戻すまでもない。
先日の王女救出のお礼もままならぬまま恐縮だが・・・と呼ばれて来てみれば、勇者たちとの顔合わせだった。ただ、それだけのことだ。
歓迎できるかは別として。
「サーレンさんはすごい魔術師なんですよね! しかも体術も一流とか! ボク、サーレンさんに鍛えてもらうのとっても楽しみです!」
「アンタ、本当にすごい魔術師なの・・・? なーんか胡散臭いのよね、オッサンだし」
「ヤリス・・・失礼だよ・・・? 王女殿下様がすごい人だって言ってるのですから、きっとすごい人なんだよ・・・」
ものすごく期待をした目で俺を見つめるユーリ。
胡散臭そうな眼を向けてくるヤリス。
ボソボソとつぶやくように話すヨナ。
当てが外れた。完全に。
どうせ勇者とかの称号で浮かれ切ったトンチキ野郎たちだとばっかり思っていたから、「こんなおっさんに教わることなんかねーよ!」とか、「チートでぶち殺すぞ!」
とか言われるとばっかり思っていた。当然言われたら、「あ、私、こんな勇者様たちを教育なんて無理でございます~」と宣ってトンズラする予定だったのに。
なんでこんなおっさん相手にやる気なんだよ!?
ジト目程度じゃ断れないじゃないか!
まして勇者君はおっさん相手に何をわくわくしてるの!?どうみても俺は大したことないでしょ!?ただのおっさんでしょ!?
「どうだ? サーレン殿も自己紹介を頼みたいが」
にっこり笑顔を俺に向けてくるクレイリア王女殿下。
「あー、サーレン・マグデリア。四十五歳。万年最下級の木っ端役人をやっております。最近トシのせいか、体の節々が痛みまして。魔王討伐の旅には耐えられないのではと戦々恐々としている毎日でございます」
そう言ってヘロヘロとお辞儀をする。
ちらりと見ればクレイリア王女殿下は困ったヤツだといった苦笑を浮かべ、ユーリたちはポカーンとしていた。
そして端の方でざわつく一同。クレイリア王女殿下は国王以下国の重鎮たちをこの場に呼んでいた。
実際、クレイリア王女殿下に俺の実力がばれたとしても、それ以外の人間にはまだバレていないはず。となれば、ここで自分の実力を見せる必要などない。クレイリア王女殿下の勘違いで押し通せばいいのだ。といっても、クレイリア王女殿下との前回の会談で俺の実力の一端は認めてしまってはいるのだが。
後はどこまでクレイリア王女殿下が俺を使いたがるかどうか。
国王たちにサーレンなぞ使えぬ奴にこだわるなと諭してもらえればなんとかなるか・・・。
この胸の内側にしまってある「切り札」を使わないに越したことはないのだが。
最悪はこの切り札を出さねばなるまい。長年の自堕落生活を守るためには。
「なるほど! 擬態というヤツですね! まずは敵を油断させることが大事なんですね!」
ユーリ少年。どうしてこんなうだつの上がらないおっさん魔術師をつかまえてそんなポジティブに捉えられるのかな?
「こんなオッサン、ホントに使い物になるのかしら・・・?」
ジト目が強くなるヤリス。これが正解の反応だよ。勇者の家庭教師をお断りするためには、まだ弱いくらいだけど。
「一緒に旅に出たら私の<回復>を毎日かけてあげますね・・・。きっと腰が痛いのもよくなりますよ」
ニコニコと話すヨナ。優しい子だけど、そんなおっさんと魔王討伐に行くという事実に気がついて欲しい。
「サーレン殿、貴公の活躍はすべて彼らに説明してある。彼らは貴方に期待しているのだ。むろんこの私もな」
オーマイゴッド!
クレイリア王女殿下がその目で見たことを全部しゃべってしまったら、疑うことを知らない、いたいけな少年少女たちがまるでスーパーヒーローでも見るかのように俺を見てくるのも仕方がないのか。
てか、いったい何をどこまでしゃべったんだよ、この王女様は。
だが、端で集まる国王様を始めとしたお歴々の方々は不満が溜まっているようだ。
そりゃそうだろ、万年最下級の木っ端役人連れてきて勇者の教育して一緒に魔王討伐に行って来いって言ってるクレイリア王女殿下は頭がどうかしたと思われているに違いない。
「王女様、そろそろいい加減にされてはいかがかな?」
偉そうな態度で立ち上がったのはブルレッド侯爵か。
「こんな木っ端役人を呼んで一体どういうつもりなのですかな? 我々を馬鹿にしているのですかな?」
「そうではないぞ、サルバドール卿。サーレン殿の実力は間違いなく魔王軍の将軍クラスを退けるだけのものがあるのだ」
大きな胸を抱えるように腕を組みながら話すクレイリア王女殿下に勇者君たちが目を輝かす。マジで勘弁願いたい。
「馬鹿馬鹿しい! そこのモヤシのような木っ端役人は無理だと申しておるではないですか! だから我が息子を推薦しておったのですぞ!」
サルバトール・フォン・ブルレッド侯爵か。勇猛果敢な戦士として名をはせた古くからある名門侯爵家らしいな。
なるほど、魔王討伐の任務に実の息子を入れ込みたいと。
どんなやつか全然知らんけど。
「いや、サーレン殿の実力は本物だ。彼なしで魔王討伐など夢のまた夢だろう。魔王十二将軍が一人、悪魔王グレゴールと実際に戦った私だからこそわかる。
何よりここにいる何人かはグレゴールの襲撃を知っているはずだ。魔王軍の強大さは身に染みてわかっているはず」
クレイリア王女殿下の言葉に何人かが押し黙る。
あの場にいなかったブルレッド侯爵たちも、上級貴族の中でも王族に近い重鎮たちには魔王軍の将軍が単独で襲来したという情報は共有された。
だが、サーレンが悪魔王グレゴールを倒したと説明しているのはクレイリア王女殿下一人のため、その信憑性は全くと言っていいほどなかった。
たとえクレイリア王女殿下の言葉だったとしても、勘違いや幻を見たのでは・・・と判断されていた。
それほどまでにサーレン=有能がつながらないようだ。
「無駄ですよ、そこの腰抜けに何ができるというのだ?」
ブルレッド侯爵が歩み寄ってきて俺の胸倉を掴む。
「いい加減王女様を謀った罪を認め、出ていくんだな!」
グイッとつかんだ胸倉を持ち上げて首を絞めようとしてくる。苦しいじゃないか。
「よさないか!」
クレイリア王女殿下が止めようとしてくれる、が。
「いいでしょう」
その前にそう言って俺はニヤリと笑う。
「なに?」
ブルレッド侯爵が怪訝な顔をするが、胸倉は放してくれないのでなんとかローブの内側に手を入れる。
「おお、ついにその実力を見せてくれるか!」
クレイリア王女殿下が嬉しそうに満面の笑みを向けてくる。
だが、俺はローブの内側から一切れの羊皮紙を取り出すと、クレイリア王女殿下に差し出した。仕方がない、今こそ切り札を切ろう。
「・・・これは?」
「えーと、退職願いです・・・。最近年のせいか、めっきり体力が落ちまして・・・激務に耐えられそうになく・・・」
ぼそぼそとつぶやくようにグダグダ言い訳する俺。俺の切り札とはズバリ「退職願い」! 王城勤めを辞めてしまえば、無理やり魔王討伐とか勇者教育とか押し付けられまい! フッ・・・素晴らしいほどの最低ぶりだ! これで見限られること間違いなし!
「ブッ・・・ブハハハハッ! なんという腰抜けよ! はやくこの場から消え去るがいい!目障りだ!」
掴んでいた胸倉を放し、俺の肩をドンと突き飛ばすブルレッド侯爵。
端の方を見れば国王様たちもあきれ顔だ。
ローズクォーツ伯爵やドモン伯爵が首を傾げ、騎士隊長のミランダがブルレッド侯爵に怒りの表情を向けているが、まあいいや。
よしよし、概ね目算通り。それでは失礼します、へへって感じてその場を去ろうとしたその時。
ポロリ。
クレイリア王女殿下が涙を流した。
直前まで俺が渡した退職願をボーゼンと見つめていたクレイリア王女殿下が大粒の涙を流し始めたのだ。
「そ・・・そんなに私が嫌いか・・・?」
退職願・・・俺は役職のない最下級役人だから辞表ではないのだが・・・をぎゅうっと握りしめ、大粒の涙を流して泣き始めてしまった。
ヤバイ! 一国の王女を泣かしてしまった!? ど、どどど、どうしよう・・・?
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