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第22話 年の瀬の一幕

ブックマーク追加、★評価、誠にありがとうございます!

大変励みになります。

今後もコツコツ更新して参りますのでよろしくお願い致します!


「いや~、寒い寒い」


ぶつくさ文句を言いながらも七輪を四つも用意して炭を用意するサーレン。


「<種火(ティンダー)>」


指先からポッと小さな炎が出ると、炭に着火していく。


「ようサーレンのおっさん! その七輪で何焼くんだ?」


筋肉ムキムキのマッチョマン、ゴランがサーレンに声を掛けた。

ちなみにゴランはレンガを積み上げてかまどを作り、その上に鉄板を置いて大きな鉄板焼きの準備をしていた。


「何を焼くかは準備できてからのお楽しみですよ」


「なんだよ、もったいぶるなぁ。それで期待外れだったら一杯奢れよ?」


「いいですよ? その代わり期待に添う物ならそっちの奢りですよ?」


「もちろんだ!」


お互い笑顔で準備を進める。

サーレンたちはいつもの長屋の連中と近所の連中を集めて年末のお疲れ様会を開こうとしていた。メイン参加者たちからは少しずつ集金して食材や酒を買い付けてきているものの、元々それほど裕福な者たちがいるわけでもなく、廃材などをかき集めて調理器具にしたりしていた。


「はーい、お肉と野菜切れましたよ~」


長屋の管理人であるフィレーヌさんが娘のフィーナちゃんとともに切り分けたお肉や野菜を持って来た。


「おー、この鉄板に乗せて豪快に焼くからな!」

「ゴラン、受け取って来たぞ」


そう言って焼きそばの麺のようなものが大量に入った袋を差し出したのは、こちらも長屋の住人で長身痩躯のいでたちであるロキアルだった。

ひょうひょうとしたいで立ちのわりに隙が無く、暗殺者か手練れの盗賊を思われるロキアルだが、この長屋に個人の過去を詮索する無粋者はいなかった。


「おうロキアル、その麺がねーと俺様特性肉野菜ごった煮麺は完成しねーのよ!」

「鉄板で焼いているのにごった煮なのか?」

「こまけーこたーいーんだよ!」


貴重な油を少々鉄板に引いたところへ材料をぶちまけるとジューという食欲をそそる音に立ち込める香ばしい匂いも拍車をかけ、否応にも期待が膨らんでいく。


「酒を手に入れてきた」


そう言って大きな樽をそれぞれの手に抱えて帰って来たのはこちらも筋肉ムキムキの女戦士、フェザーヌだった。冒険者としてBランクの腕前を持ち、身長より長い豪槍を扱う豪快な戦士である。


「おっ!フェザーヌちゃん、わりいね」


「悪いと思うなら遠慮して飲むことだ」


「残念ながら酒に関しては遠慮と言う言葉を知らねーんだわ、オレ」


ゴランの軽口に溜息を吐きながらも酒が詰まった大きな樽をドスンと地面に置く。


「・・・サーレン、その七輪で何を焼くのだ?」


「ゴランさんにも聞かれましたけど、みんな興味津々ですねぇ。火が安定するまで内緒ですよ。後のお楽しみです」


「むう・・・では酒でも飲んで楽しみに待つとしよう」


そう言って早速樽の蓋を開けると、酒を飲み始めるフェザーヌ。

「あ!俺にもくれっての!」


ゴランは両手でへらを操り豪快に肉や野菜を炒めながらも酒を要求する。


「どうやって飲む気だい?」


「そんなもん、飲むときは片手でやるに決まってんだろ」


フェザーヌも聞いておきながらそりゃそうかと首をすくめる。


「おっしゃん!いつまでも炭を眺めてないで早く焼くでしゅ!ゴチソーを食べさせてくれる約束をわしゅれてないでしゅよね!?」


腰に両手を当てぷりぷりするフィーナに思わず笑みをこぼすサーレン。


「こら、サーレンさんになんて口のきき方するの!」


フィレーヌさんの叱責に思わず「はううっ」と頭を抱えるフィーナちゃん。


「ははは、それでは姫が待ちきれないようだから持ってくるとしますかねぇ」


そう言って一度長屋に戻ると、自身の部屋からとってきたように見せて<道具収納(アイテムBOX)>からそれを取り出す。


サーレンが持って来たのはトロ箱に入ったたくさんの魚だった。


「こ、これは・・・!?」

「ターコイズ王国の冬の名物って言われている‘ヨンマ’じゃねーのか!?」


「そう、その通り。これは‘ヨンマ’ですよ。しかも生」


「ひ、干物じゃないのか・・・この量の生魚だと!?」


フェザーヌが驚くが無理もない。冷凍冷蔵技術が乏しいこの世界で生魚が食べられるのは沿岸地域か大きな支流のある川の近くくらいだったからだ。


「この‘ヨンマ’を七輪の炭火で焼いて焼きたてを食べるとね・・・そりゃあうまいんですよ」


ニコニコしながら七輪の網の上にヨンマを並べていくサーレン。

たちどころにヨンマから滴る油が焦げる匂いが立ち込める。


「うお~、めっちゃうまそうじゃねぇか!」

「確かに、これはうまそうだ」

「実に酒に合いそうじゃないか」


ヨンマが焼ける匂いに興奮する一同。


「ふおおっ!これがおっしゃんの言っていたゴチソーでしゅか!」


目をキラキラさせて焼けるヨンマをフィーナちゃんが見つめている。


「それにしてもこんな大量のヨンマを・・・しかも生でなんて、相当高いのでは・・・」


フィレーヌさんがサーレンの懐具合を心配した。


「そうだぜ、相当高級なんだろ? しかも生なんてこの王都じゃお目にかかれねえよ。あってもカチカチの干物がせいぜいだぜ」


ゴランも首を捻る。


「なに、チョットしたツテがありましてね・・・。値段も向こうの漁港で直接買い付ければ驚くほど安いみたいですよ?」


「サーレン殿の『ツテ』とやらはいつも驚かされるな」


酒を煽りながらフェザーヌが笑う。

ちょっとした『ツテ』で普段手に入らないものをしれっと持って来る。

そんなサーレンの持ってくるものにいつも楽しませてもらっている長屋の住人は自然と笑顔になった。


シャンシャンシャン。


そこへ軽やかな鈴の音が聞こえてくる。

見れば豪華な馬車に護衛の兵士がついた一団がこちらへ向かってきていた。

馬車の色がカラフルで、御者がオババでなければ貴族の偉い人が来たのかと勘違いするところであろう。


馬車の窓から薄ピンクの花びらがまかれる。

この『神々の薔薇(ディバインローズ)』の花びらは浄化作用の他、消臭、芳香効果があり、非常に重宝されるものである。馬車からは惜しげもなくその花びらがまかれ、この長屋通りを良い香りに染めていた。


「おや、色街通いのロクデナシじゃないか」


ニタリと笑みを浮かべるオババにサーレンは苦笑する。


「それが長年の常連客に言うセリフですかね?」


「大事な常連は金払いのいい奴の事をいうのさ」


サーレンの苦言にも笑みを絶やさずオババはどこ吹く風のようだ。


「それで、ここにはどのような御用で?」


「営業と、後は・・・年末の挨拶かねぇ?」


そう言ってオババが笑いながら御者台から降りると、馬車の扉を開ける。

馬車から降りてきたのは、艶やかなドレスに身を包んだカトリーヌだった。


「サーレンさん、今年も一年お世話になりました」


優雅なお辞儀で頭を下げるカトリーヌに思わずサーレンは慌てて立ち上がる。


「いや、こちらこそお世話に・・・って、わざわざ挨拶しにこんなところまで?」


「こんなところで悪かったですね?」


横を見ればなぜかご立腹のフィレーヌさんが。


「あ、いやこの長屋がどうとかいう事ではなくですね・・・」


「実は私、来年三十歳になるんです・・・」


しどろもどろになるサーレンにカトリーヌはあえてフィレーヌを無視するように話を進める。


「さすがにずっとこのお仕事を続けていくのも・・・その・・・どうかと思いまして・・・」


だんだんと顔を赤らめながら声が小さくなって行くカトリーヌ。

この雰囲気にフィレーヌがピンときた。

さらに何か言いたそうなカトリーヌに先んじて声を上げる。


「サーレンさん!ヨンマが焦げちゃいますよ!」


「えっ!? おおっと・・・いかんいかん」


慌てて箸でヨンマをひっくり返すサーレン。

箸の文化はそれほど広まっておらず、サーレンの箸使いは器用に見えた。


「ほう、こりゃ生のヨンマを焼いてるのかい!? いったいどうやってこの王都でそんなモンが手に入ったんだい?」


どうもオババはこの生のヨンマがとんでもないことだと気づいたようだ。


「まあまあ、とにかく皆さんもコップを持って乾杯しましょうよ? ヨンマ、たくさんあるんですよね?」


フィレーヌさんの仕切りにそれぞれがコップを持って酒を注ぎ始める。


「ええ、ヨンマはたくさんありますから、皆さん食べられますよ」


「やったーでしゅ!」


フィーナちゃんが万歳しながら飛び跳ねる。


「もちろんこのオババたちの分もあるんだろうね?」


「予定はしていなかったけれど、たくさん買ってきたから十分ありますよ」


「そりゃいいことだね!」


そう言うとオババはサーレンの横にカトリーヌを座らせて自分は七輪の前に陣取ると、指をパチンと鳴らす。

その合図で馬車から使用人が酒樽を運び出してきた。


「ホンの気持ちさね」


「オババの酒ほど後で高くつくモノはなさそうだけどなぁ」


「何言ってるんだい、年末のお得意様まわりだよ」


だが、酒樽をあけたゴランは驚いた。


「すげえっ!最高級の本物のエールだ!」


木のジョッキに並々ついだゴランが一気にエールを飲み干した。

エールの薫り高い甘い匂いが漂ってくる。


「ふむ・・・これは素晴らしい」


フェザーヌも自分のジョッキにエールを継ぐと一口飲んで感嘆の声を漏らす。

ロキアルも一口飲んで驚いたのか普段開いているのかわからないような目をカッと見開いている。


「まったく、ここには本物の味がわかるヤツしかいないのは、逆に贅沢な話しさね」


炭に炙られて焼けていくヨンマを見ながらオババが文句なのか褒めているのかわからないようにぼやく。


「バーサンこんなすげぇエールを持って来るなんざ、タダモノじゃねーな?」


「あたしゃただのババさ、色街で店をやってるだけのね」


ピュー、なるほど、とゴランが口笛を吹く。

それだけでこのオババが色街でどのような立場にいるのかを理解したのだ。


「こんな年の瀬にサーレンさんとお会いできて光栄です・・・」

「サーレンさん? ヨンマ焼けましたよ? はい、あーん!」


サーレンの右側にはサーレンの腕をとり一緒に座り込むカトリーヌが。

サーレンの左側には七輪からやけたヨンマを器用にも箸でつかんでサーレンに食べさせようとするフィレーヌが。


(なぜ、こんなことに・・・?)


サーレンはエールも飲めず、ただ目を白黒させるばかりだった。



今後とも「おっさん魔術師」応援よろしくお願いします!

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