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第21話 帰り道のお誘い


「はあ~~~~~」


大きなため息を吐きながら王族の住まう廊下を歩いていく。

足取りは重いが早くこのフロアかた立ち去りたい、そんな思惑がサーレンには見て取れた。


「それにしても・・王女殿下のお礼がなぁ・・・」


サーレンは腕を組みながらとぼとぼと足を進める。

クレイリア王女殿下はサーレンのためにいろいろとお礼を考えてくださっていた。いたのだが・・・。


「お手製の料理でおもてなしとか、休日に王都の街を一緒に散策とか・・・」


それなりの立場の者からすれば夢のような提案かもしれないが、最下級の木っ端役人の立場であるサーレンからすればそれはある種の拷問と言うか晒し物というか、とにかくご褒美とは縁遠いものであった。


大悪魔グレゴリーを退け、クレイリア王女を助けたというサーレンの功績をクレイリア王女以外が誰も見ていないため、国王曰く国庫から褒美を出すことはできないとのことだった。そのためクレイリア王女は私財から褒章を出すと言ってくれたのだが、実のところクレイリア王女は数年も遠征に出ていたこともあり、それほどお金を持っていなかった。

軍人としての給料はほとんど使わず溜まっているのだが、私財自体はそれだけで王族としては自由になる財産をほとんど持っていなかったのである。


「ゴーモンだよ、ゴーモン。あのクレイリア王女と王都の大通りを二人で歩いたりなんかしたら、3回は刺される自信があるよ・・・」


クレイリア王女殿下には上位貴族からの求婚が絶えずひっきりなしに申し込まれている。

そんな相手と堂々デートなどしたら、相当なやっかみと嫌がらせが待っているだろうとサーレンは身震いする。

かと言ってそれほど自由に使えるお金を持っていないクレイリア王女殿下から直接金貨をもらうのも気が引ける。

尤も実際サーレン自体はお金に困っていない。Sランク冒険者灰色の魔術師としての稼ぎがたっぷり蓄えられているからだ。そのため、どうしても現金が欲しいわけでもなかったサーレンは結局クレイリア王女殿下に直接褒章をお願いすることはなかった。


「すごく申し訳なさそうな顔してたけど・・・どうしようもないわな。クレイリア王女殿下もない袖は振れないだろうし、『私自身でお礼を』なんて言う危険な申し出を受ける気にもなれないしねぇ」


サーレンは深いため息を吐きながら赤い絨毯の廊下を通り抜け、下の階層へ移動していく。


「ようっ! サーレン!」


ガシッ!


「はぶっ!」


いきなり声をかけられてヘッドロックを決められたことに驚き変な声が出てしまったサーレンは目を白黒させる。


「随分とシケたツラしているじゃないか」


「一体何が・・・って、君はミランダ!?」


サーレンにいきなりヘッドロックをかましてきたのは『王宮騎士団(ロイヤルガーデン)』第三軍団長、『赤い閃光』のミランダ・フェルトエンドであった。


「ようよう!第一王女殿下の元へ行ってたんだろ? 何話してきたんだよ?」


あえてクレイリアの名を出さずに問いかけるミランダ。


「何って、大した話じゃなかったけど・・・」


「ウソゆーなよなー、クレイリア王女殿下がわざわざ直接呼んだんだろ? デートの申し込みでもあったかい?」


グイグイとヘッドロックを締め上げながらサーレンから情報を引き出そうとするミランダ。


「おいおい、こんなアラフォーのオッサンにデートの申し込みなんてあるわけないだろ?」


苦しいと言えば苦しいのだが、ミランダが騎士団の鎧をつけておらず、通常の服装だったため、ふにゅんと柔らかいミランダの胸が現在進行形でサーレンの横顔に押し付けられている。これはこれで悪くないとサーレンは思い始めていた。


「ホントか~? クレイリア王女殿下が求婚とかしてこなかったか?」


「ばっ!? ばかなこと・・・あるわけないじゃないか、オホンオホン」


直接の言質はなかったものの、そんなニュアンスの話も出ただけにシャレにならないとサーレンは冷や汗をかく。


「キシシシシ・・・そうかいそうかい(姫殿下様もさすがに身分違いのサーレンにすぐ手は出せないってわけね)」


やたらとニヤニヤしながらサーレンの首を締め上げるミランダに一体どういうことかとドギマギするサーレン。だが、何ともなしに柔らかい感触がサーレンの思考を惑わせる。


「じゃあこれからアタイと飲みに行かねーかい? どうせ一級街は苦手な口だろ? アタイもなんだ。下町にいい酒を出す店があるんだ」


お誘いをかけてくる割にヘッドロックを外さないミランダにどうしたものかと思考を巡らせるサーレン。


「いや、確かに一級街は苦手だし、下町の方がありがたいのはありがたいが・・・」


「だろ? サーレンもそうじゃないかと思ったんだよ~、アタイと同じ匂いがしたからね!」


「え?そう」


クンカクンカ。


「バッ!バッカ野郎!ホントに嗅ぐヤツがあるかい!」


いったんヘッドロックを外してサーレンの後頭部を貼り倒すミランダ。


「あいたっ!」


そして再びヘッドロックをかけなおす。


「ん~~~、なんだいなんだい?随分あっさりとヘッドロックに捕まっちまうんだね。はは~ん、さてはアタイのおっぱいが気に入ったね?」


キシシシシ、と笑いながらグイグイと首を絞めつけつつ胸も押し付けてくる。

いったい何がしたいのかとサーレンは苦しいやら柔らかいやらで軽くパニックだったのだが、ミランダの一言で我に返る。


「ミランダ」


「ん?なんだい?」


「誠に残念だが・・・ミランダのおっぱいサイズは厳密には・・・『ぱい』だ」


「ぱ・・・ぱい?」


「そうだ。ある一定以上の巨乳を『おっぱい』と呼び、ある一定以下のぺったんこを『ちっぱい』と呼ぶ」


「はあ?」


「そしてミランダ、君の胸は・・・大きすぎず、小さすぎない、丁度いいサイズ。つまり・・・『ぱい』だ」


手をいやらしくワキワキと動かしながら熱弁するサーレン。


「尤も私はもちろん『ぱい』も大好き・・・」


「人の胸を無個性な感じでバカにするな!」


ボグッ!


「がはっ!」


ヘッドロックを解いたミランダがサーレンの右頬に思いっきりストレートを放つ。ぱいの感触に浸っていたサーレンに躱せるわけもなく、モロにパンチを食らってもんどりうってひっくり返った。


「失礼なヤツだなサーレンは!アタイの胸を何だと思ってるんだい!」


プンスコと怒りながらドスドスと足音を立てて廊下を戻っていくミランダ。


「あいつ・・・結局何しに来たんだ?」


廊下にひっくり返りながらぼやくサーレンだが、自分がモテるはずがないと思い込んでいるため、先ほど飲みに誘われたことはすっぽりと抜け落ちていた。


よろよろと立ち上がるとサーレンは自分の部署のデスクに戻るのだった。



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