第18話 サーレン、その実力の一端
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ボロと言っていいマントの肩口についた埃をはたきながらゆっくりと足を進めるサーレン。
「なんだぁ、テメエは? 弱そうな魔術師風情の雑魚が俺様に何のようだ?」
クレイリアを触手で拘束したまま、首だけ振り返りサーレンの姿を見た大悪魔グレゴリーはサーレンをただの雑魚だと瞬時に認識した。
「いやぁ、お前さんのような口の臭い薄汚い悪魔なんかに用はないんだがねぇ。あんまり近くで暴れられると臭くてかなわないしねぇ」
肩を竦めるようにして溜息を吐くサーレン。
グレゴリーの頭は一瞬混乱する。
この矮小な人間は一体何を言っている?
この大悪魔グレゴリー様に向かって薄汚い、と罵ったのか?
この矮小な人間は周りの仲間が全員倒されているのに、なぜ表情一つ変えずに歩いてくるのか?
だがその混乱もほんの一瞬でグレゴリーは立ち直る。
(コイツ、ただのバカだ)
多分恐怖で狂ったのか。
グレゴリーはサーレンを雑魚と判断し、即殺すことにした。
「死ね」
クレイリアを捉えている触手とは別に二本さらに増やし、サーレンに向かって放つ。
「光爆流星」
右手の人差し指と中指を一瞬自分の唇に当てた後、素早く右手を正面に向け、詠唱破棄で魔法を放つサーレン。
ドドドドドッ!
回転する光の玉が触手を直撃すると、爆発、触手は霧散し消える。
「バ・・・バカな! 詠唱破棄でこの威力・・・しかも光の魔術だと!?」
光系統の魔法は使い手が少なく、高威力の魔法を操ることもまた難しいと言われていた。悪魔であるグレゴリーは過去幾度も光の魔術の使い手と戦ったことはあるが、これほどの威力を持つ光の魔法を受けたことはなかった。
「ハッ・・・やるじゃねーか」
そう言ってグレゴリーは触手で拘束していたクレイリアを解放し、その場に放り出した。
(あ、よかった。正直捕えられていた姫騎士殿は見えちゃいけないトコが全開だったからな)
あまりガン見するのもきっとよろしくなく、かといって大悪魔グレゴリーから目を話すわけにもいかず、チラチラ気にしながら今まで喋っていたサーレンだが、実際グレゴリーから目をそらしてもこれほどの悪魔の魔力など目で見るまでもなく感知できるサーレンは目を、向けていなくても問題なかったのであるが、それを指摘する者はここにはいなかった。
「ハッ! 魔術師なんざ接近戦に持ち込みゃ怖かねーんだよ!」
一足飛びに間合いを詰め、右手の鉤爪を振るうグレゴリー。
だが、その場にサーレンはいなかった。
「どうした? 俺はここだぞ?」
グレゴリーの右後ろですぐ声がする。
「チイッ!」
右手の裏拳で声のした場所を薙ぎ払うグレゴリー。
だが、裏拳は空を切る。
「お前、何してんの?」
今後は左後ろから声が聞こえる。
「シャア!」
今度は右足で回し蹴りを放つ。グレゴリー自身サーレンの姿を見逃すまいとその意識を高めての蹴りは、確かにその目にサーレンの姿を捉えていた。
だが、サーレンの姿が消え、回し蹴りが空を切る。その瞬間、
ドゴッ!
凄まじい衝撃が右側頭部を襲う。
自分の回し蹴りに合わせて回し蹴りを放ったサーレンの一撃が自分を捉えたと気が付くのに一瞬の時間を要した。
蹴り飛ばされたグレゴリーが大勢を立て直してサーレンを睨みつける。
ふわり。
装備を引きちぎられほとんど裸の状態だったクレイリアに美しく淡い光を纏うマントがかけられる。
「さすがにボクのボロマントを姫騎士様にかけるわけにもいかないからねぇ」
サーレンは何もない空間に魔法陣を浮かべると、白いマントを引き出し、クレイリアに視線を向けることなく白いマントを放ったのだ。
サーレンの立ち位置を見たグレゴリーは気づく。
姫騎士を助けるためにわざと立ち位置を入れ替えてからサーレンが攻撃してきたことに。
サーレンは姫騎士の前に立ち、蹴り飛ばされた自分は姫騎士から離されてしまったのだ。
「テ、テメェ!舐めやがって!」
グレゴリーに怒りに満ちた視線を向けられるサーレンだが、
「サ、サーレン殿・・・」
掛けられたマントを震える手できゅっと握りしめながら、サーレンの後ろ姿にクレイリアは声をかける。
「クレイリア王女殿下、これは夢ですよ」
「夢・・・?」
「そう、夢です。気づけば貴方は柔らかなベッドの中で目を覚ますでしょう」
そう言うとサーレンは唇に指を当てる。
「サ、サーレン殿!私は・・・」
だが、クレイリアは何か言い終わる前に瞼を閉じ、ゆっくりと倒れていく。
「<眠り誘う世界>。目が覚める頃にはこの悪夢は終わっていますよ」
そう言うと振り向いたサーレンは優しく笑い、眠りに誘われ倒れるクレイリアを抱きとめると、そっと床に横たわらせる。
「どこまでも舐めた真似を! お前ら脆弱な人間どもめ! 焼き尽くしてやる!」
さらなる怒りを漲らせ大悪魔グレゴリーは翼をはためかせ両手を広げると魔力を練る。
「さすがは悪魔。人間よりは魔力の扱いが流暢だねぇ」
サーレンはグレゴリーの魔力の高まりを見て素直な感想を述べた。
「当たり前だ!俺は大悪魔だぞ! 獄炎よ!その姿を顕現せよ!わが敵を焼き尽くし死へと誘え!」
「敵の前で優雅に詠唱とはね・・・風の精霊よ、我が意を伝えこの身を守る盾となれ」
「<獄炎破壊嵐>!!」
「<気流大障壁>」
目の前を真っ赤に染める爆炎の嵐が襲い来る。
だが、サーレンの魔法により強い気流が発生。圧倒的な熱量と全てを焼き尽くすような炎がまるで優しく受け流されるようにうねり、空へと流されていく。
「な・・・なんだ・・・と」
絶対の自信を持って放った呪文だったのか、放ったグレゴリーはその体勢のまま固まっていた。サーレンは自分やクレイリアだけでなく、その周りで倒れている国王やローズクォーツ伯爵、ミランダ、ラッセル宮廷魔術師長、その他兵士など、グレゴリーの放ったすさまじい炎からあっさりと全員の命を守ったのである。
たまたまその中にコンロンもいたのだが。
「さて、お前の獄炎とやらは見せてもらったからな。俺が本物の炎を見せてやろう」
「はえっ!?」
目の前のただの人間だと思っていた存在が自ら放った最強の呪文をまるで涼やかにいなし散らしてしまった。結果誰も焼け死んでいないどころか、誰もダメージを追っていない。魔界の魔獣ですら骨すら残さず焼き尽くす獄炎の魔法が全く効果を示さなかったのである。目の前の人間によって。
「ルミナ・バロール・エクステント! 精霊の御名において、数多の子らに告ぐ!」
サーレンはわざと詠唱を唱えた。
サーレンの能力であれば詠唱破棄も無詠唱でも対応可能だ。
だが、あえて詠唱を唱えるサーレン。それは知るものが聞けば、死へのカウントダウンと言っても過言ではなかった。
グレゴリーは戦慄した。サーレンが一歩自分に歩み寄るだけで恐怖が体を貫く。逃げなければと頭の中で警告が響くのだが、恐怖に縛られるように体が動かなかった。
「ば・・・ばかな! 貴様ごときただの人間が・・・そんな呪文を使えるわけが!」
脂汗を流し、わなわなと震えるグレゴリー。
だが、グレゴリーの頭上には魔法陣が1つ、また1つと現れ、大きな火球が空に浮かんでいく。サーレンは唇をにやりと歪め、詠唱を続ける。
「火炎界の階層におけるその理を外れ、我が手に集え。ゲヘーナの業火よ、我が敵を焼き尽くせ!!」
「や、やはりその呪文はぁぁぁ・・・」
絶望の表情を浮かべるグレゴリー。
「<業火焦熱地獄>!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する大悪魔グレゴリーの頭上には時計の針が一蹴するように12の魔法陣が次々と浮かび、それぞれに大きな火球が現れる。そしてぐるぐると回転し始めたかと思うと、一斉にグレゴリーに向かって落ちてくる。
ズトォォォォォォン!!
12の大火球が一斉にグレゴリーに直撃、大爆発を起こした後、超高熱の火炎竜巻に変化しグレゴリーの肉片一片も残さず焼き尽くした。
「・・・これで魔軍十二将軍の一人ねぇ・・・。この程度のレベルなら、魔王とやらをさっさと殺しに行った方が自堕落生活を安心してマンキツできるかねぇ?」
顎をスリスリとさすりながらサーレンはさも何でもないことの様につぶやいた。
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