第10話 押し付けられた仕事も工夫すれば楽しめる
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「おーい、こっちもお酒くれー」
「はいはいただいまー」
「あ、こっちもお勧めのワインお願い!」
「わっかりましたー」
なぜ、俺が酒の入ったグラスをお盆に乗せてあっちこっちに走り回っているのか。
それもいつものくたびれた魔術師のローブにエプロンと言う頭のおかしい出で立ちで。
その理由は一昨日までさかのぼる。
「おい、便所の達人」
「せめて便所掃除と掃除をつけてくれ」
「お前なんざ便所虫でもいいくらいだろ」
俺の言葉を小ばかにするように笑って否定するコンロン。マジで鬱陶しい。
「さて、お前には重要な仕事を与える」
「なぜ直属の上司でもないお前が俺に指示を出す?」
俺は多少眉間に皺を寄せて尋ねる。
「バカか貴様? 貴様の部署のしょうもない管理者よりずっと俺の方が偉いんだ。俺のいう事を聞くのは当たり前の事だろう?そんなこともわからんからいまだにうだつの上がらない底辺魔術師なんだよ、貴様は」
ニヤつきながら腕組みして俺を見下ろすコンロン。
本当に魔術師かと思うほどに筋肉ゴリラだな。身長2m超えてるし。
「それで、仕事とは?」
「明後日王城の中庭で行われる式典の給仕だよ」
「・・・給仕?」
コイツは何を言っているんだろう?
王城にはそう言った式典やらパーティやらに対応するメイドやサービスを管理する部署があるだろうに。
「お前はいつものローブのままでいいぞ。給仕用のエプロンはこっちで用意してやる」
そう言ってニタニタ笑うコンロン。
何考えてんだろうね・・・。どうせ俺には断れない。俺は溜息を吐いた。
「あれ? これ、こっちのワインと結構味が違うね?」
「そうなんですよ。好みもありますけど、こっちのワインもいいでしょ? このワイン、王都から北にわずか2日のムオール村で作られているワインでしてね。実はお値段もとても安いんですよ。知る人ぞ知るってワインでしてね」
「ほう!それはいいね!ウチは男爵家とは言っても、大貴族と違って大した金もなくてね」
「でも、そんな時にこのワインですよ。来客に出してよし、気の合う仲間とがっちり飲んでよし。そしてそれほど高くないからある程度数もそろえられますよ」
「いいね!」
「しかも・・・ここだけの話、このワインが今日の式典で知られてしまえば、そのうち王都中に話題が広がって大貴族の皆様も金に糸目をつけずに買い漁るかもしれません」
「それはマズイ! 明日にでも買い付けに出向かねば!」
「今このワインを抑えておけば、大貴族の皆様が買い漁るころには値段が急騰してますよね・・・」
俺はニヤリと笑う。
「そうか! 買っておいたこのワインの価値がもしかしたら何倍にも・・・」
「もしかしたら、ですけどね」
「いい情報をもらったよ。もし何かあったらぜひ私を訪ねてきてくれたまえ、サーレン殿」
「機会があればぜひ」
そう言ってご機嫌でワイングラスを片手に若い男爵様が中央のテーブルへ戻っていく。
俺の方がだいぶ年上だろうが、平民の俺を殿付けで呼んでくれるとは、ワインの情報が相当効いたみたいだな。まあ、すでに俺はこのワインを相当数買い付けているけどね・・・Sランク冒険者「グレイ」の名でだけど。
「少し酔ってしまったようですわ・・・」
「それではマダム、こちらの果実水を。サークァーシーの実を絞った爽やかな味付けですよ」
「まあありがとう」
「君、ワイン以外の酒はあるかね?」
「こちらのウィスキーはいかがでしょう?どっしりとした味わいで飲みごたえがありますよ」
「ほう、これはいいね」
次から次へといろんな貴族が酒を求めてやってくる。
通常メイドなどの給仕は黙ってお盆に酒の入ったグラスを運ぶだけだ。酒を求める方がお盆の上の酒を自由に取る。
だが、俺はせっかくなのでいろんな酒をお盆に乗せて酒を取りに来る人たちに説明していった。
結構若い貴族なんかは興味を持って話を聞いてくれる人が多かったな。
「キミ、酒には詳しいのかね?」
見れば恰幅のいい、いかにも偉い貴族っぽい立派な白ヒゲのオッサンがそばに寄ってきた。まあ俺もオッサンだが。
「ええ、基本は安酒しか窘めない魔法省の木っ端役人ですが、今日は特別です」
「特別?」
立派な白ヒゲをさすりながら首を傾げるオッサン。
「大事なお客様にお出しするお酒ですからね。式典が始まる前にすべてのお酒を味見してきましてね」
そう、俺はこの式典のために用意されたすべての種類の酒をこっそり味見してきた。役得だな。
「わっはっは!味見とな!うまいことやりおったの」
背中をバンバンと叩くオッサン。
「それではお主の一番のお勧めを頂くとするかの」
「それは間違いなくコイツですよ」
そう言って一つだけ違う形のワイングラスに入れた赤ワインを差し出す。
「何といってもあの有名なロマコーンの50年ものですよ」
俺は口に手を当てて小声でしゃべる。ロマコーンは赤ワインの王様とも呼ばれる銘柄で、毎年高値で取引されているが、よい状態で長年熟成保存されたものはとてつもない高値で取引される。10年ものくらいまでは市井でも出回っているが、20~30年物はまずお目にかかれない。超高級レストランで目ん玉飛び出るような金貨を積み上げてやっと飲める。それが50年物ともなれば、もはや幻の一品である。
「なんと!そんなワインがあったのか!?」
「式典のために用意されたワインの中でもわずか5本だけです。そのうち4本は王族用に上の階のバルコニーに運ばれています。この中庭にある50年物は1本だけなんですよ」
「なんと!」
「もちろん、5本とも王族のために用意されたもので、上の階のバルコニーへ運ばれるはずだったんでしょうけどね。なぜか手違いで1本だけここに・・・」
「ふふふ、それも君の仕業かね?」
俺がニヤリと笑いながら呟けば、オッサンもにやりと笑いながら小さめの声で呟く。
「お客様のような真の酒好きの方のために、ホネを折らせて頂きました」
お盆を持ったまま恭しく首を垂れる。
「フハハハハッ!気に入ったぞ!」
高笑いしながらとっておきのワインを口に含む。
「ふーむ、うまい!さすがに飲んだことがない程の深みを感じるのう」
嬉しそうに笑う立派な白ヒゲのオッサン。同じ酒好きとしてはうれしい限りだ。コンロンに押し付けられた給仕という役回りだが、いい仕事ができたな。
「ワシはイーワオ・フォン・ドモン伯爵じゃ。困ったことがあればいつでも訪ねてくるがいい。お前のような面白い男は大歓迎じゃ」
そう言って笑いながら去っていく白ヒゲのオッサン。てか、オッサン伯爵様かよ。大貴族じゃねーか。
貴族との付き合いなんて面倒でろくなことがないと思っていたけど、なぜかいろんな人に顔を売ってしまったな。酒は万国共通の必須アイテムだな、うん。
「おい!役立たずの底辺魔術師!さっさとこっちへ酒を運べ!」
見ればコンロンが中央テーブル近くで大声をあげている。
おいおい、格式高い式典じゃなかったのか。コイツ調子に乗ってるんじゃないのか?
俺は溜息を吐きながら中央のテーブルに向かった。
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