第1話 王城での務め
新作コッソリ初めてしまいました。
・・・おっさんが書きたかったんや~~~~!
「君はいつになっても仕事ができないのだな・・・」
提出した書類を眺めながら、あきらめ気味に上司がため息を吐く。
「はあ、すみません」
俺はとりあえず頭を下げる。
まあ、そう言われるのは仕方がない。なにせやれと言われた期日までにまとめる書類の約七割程度しか完成していないからな。八割にするかと思ったが、今の上司はパワハラガンガンというよりは、ネチネチ系だからな。この手のタイプはこちらが徹底的に聞き流せばとりあえず済む。言いたいことは言わせておけば大丈夫だからな。
「君ねぇ、そんなだからいつまでたっても下級官僚から上がれないんだよ。君確か45になったんだっけ? 君の同僚はほとんど上級官僚にあがっているだろ。君だけだよね?いつまでも最下級官僚にいるの」
その通りだから、何も言えねぇけどな。
後、ほとんど会わないがたまに王城からの帰り道にちらっと会う同期の連中たちからは、明らかに俺とかかわらないようにしようといった目で見られることが多い。
・・・偶に蔑んだ目で見てくるヤツや、バカにしてくるヤツもいるが。
あ、一番面倒なヤツは同期の出世頭のコンロンだな。宮廷魔術師長筆頭補佐とかになってる。
会う度に「お前まだ生きているのか」「同期の恥さらし」「宮廷魔術師のレベルをお前ひとりで下げている」など散々に文句を言ってくる。
・・・事実なので一言も反論できないが。
とりあえず上司の説教を聞き流して上司の席の前から離れ、自分の席に戻り書類整理を続ける。羊皮紙ってやつは二十年以上たっても使い勝手がイマイチだよな。まとめるのも面倒だし、分厚くなるしな。
俺はサーレン・マグデリア。四十五歳。
確か魔法省に入ったのが十八の時だから、勤続二十七年のベテランだ。
アラフォーどころかアラフィフになろうかというおっさんだ。
魔法省に入れたのは俺が魔術師として火属性と風属性の二系統を操れる、所謂『ダブル』と呼ばれる魔術師だからだ。ただし、どちらも初級の魔法しか使えず、威力もショボイ、魔力も少ない。そしてやる気が全くない、という評価が俺なのだ。
そんなわけで俺は勤続二十七年にも関わらず一度も出世したことはなく、同期は上流官僚になったり研究職に着いたりしている。そして俺と同じ職場には入ったばかりの若い奴らがほとんどで、俺の存在はアンタッチャブルな感じになっている。
・・・偶にハネッかえりが入ってくると俺をイジッたりバカにしてきたりもするが。
そうこうしているうちに定時になったので早速席を立って帰る。
帰り支度を始めるのではない。定時になったから帰るのだ。
周りの若い奴らが冷たい目で見てくるが、もちろん気にしない。
ヤツらは三年もたてば一階級は上がっていく。
上がらない俺とは違うのだ。
くたびれた灰色のローブに同じくくたびれた灰色のマントを羽織る。
立てかけてあった傷だらけの魔術師の杖を持つと二十七年務めている王城を出る。
このガーレン王国、王都のガレンバシアにある王城が俺の勤め先だ。
正式な勤務所属先は魔法省の宮廷魔術師となるのだが、能力の低い魔術師は官僚として庶務を担当する。俺は二十七年働いているが、俺の能力が低くまったく役に立たないとレッテルを貼られ一度も出世したことはない。
常に出勤は決められた時間ギリギリ。
逆に帰る時間は定時ジャスト。
やれと言われた仕事が終わってなくてももちろん知らん顔で帰る。
俺の八時間内で終わらない仕事を押し付けてくる上司が悪いのだ。
くたびれた灰色のローブもマントも杖もずっと替えていない。見栄えに気を付けるのは色街に繰り出す時だけだ。
軍務省などは別の場所に建屋があり、訓練なども行っているが魔法省は王城の一角に勤務する場所が確保されている。
魔法省の中でも魔術の腕が高いものや知識が高い者たち、魔法開発やその構築を研究する魔術師たちは王都郊外になる魔術研究施設の方で働いている。
この王城で働く魔術師は、王家を守る宮廷魔術師としての戦力として認められている者たちか、もしくは官僚として事務方の仕事をする者たちに分かれる。
もちろん俺は前者ではなく、後者の事務方に分類されている。
俺の所属する魔法省のトップは宮廷魔術師長のラッセル・クロウバードになるのだが、その下に宮廷魔術師長補佐と呼ばれる魔術師が十人いる。その筆頭が同期のコンロンだ。コイツは平民の星とか言われているヤツで、いまだに名字を持たない。まあ、俺みたいに一応名字というか、家名のある平民もいる。昔は貴族だったり、大商人だったりしたり、家から飛び出てきているが一応家名を名乗ったりする場合だな。
だが、コンロンは生粋の平民のようだ。どうでもいいが、コンロンは俺から見ればぶっちゃけ単なるいけ好かないだけの奴だ。
そのコンロンと帰り際に王城入り口でばったり会ってしまった。
「よう、空前絶後の落ちこぼれ」
随分と面倒くさい呼び名だな。
「お前まだ務めてたのかよ。同期の恥だからやめろって言ったろ?」
蔑んだ目で俺を見てくるコンロン。全くウザい奴に出会ってしまったな。
「お前一人で魔法省の評判をどれだけ落としていると思っているんだ? ん?」
そう言ってコンロンは俺の頭をガシガシする。
可愛い子に触られるのは好きだが、こんなゴツイ大男に撫でられるのは気持ち悪い以外に何物でもない。
イヤミや文句を言うだけなら聞き流していればいいが、実際に手を出されるのは些か我慢ならん。
俺はコンロンの手をパシンと振り払う。
そしてジロリと一瞥するとその場を去ろうと歩き始める。
「貴様っ!」
逆上したコンロンが俺の肩を掴むが、その声を聞いた衛兵がこちらにかけつける。
「どうしました?」
「コンロン様?」
どうやらコンロンは顔も名前も王城の門兵に覚えられているようだな。
だが、ここが王城の門だと忘れているのか、こんな場所で声を荒げれば門兵に気づかれるのは当たり前だろうに。周りが見えないバカほど鬱陶しいものはないな。
俺は門兵に言い訳しているコンロンを尻目に王城を出ると家路についた。
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