紫月前夜
「兄ちゃん兄ちゃん」
目を覚ましたのは俺を呼ぶ宏の声だった」
「なんだ便所かだから先に行っとけと言っただろ」
「小夜子が貴子が母ちゃんが武雄が」
第六感というものであろうか
ただ事ではないといい事が直ぐに分かった
「小夜子貴子お母さん武雄」
「みんなみんなしっかりして」
「どうした梨沙子何があった」
「お兄ちゃんお兄ちゃんみんなが冷たいの息してないの心臓の音が聞こえないの」
見るとみんなは固まっていた泡を吹いている者もいた
ドガンッ!
障子が外れた
俺は梨沙子と宏の手を引いて逃げた
「何何何があったの」
「いいから走れ速く」
「逃げるぞ」
「わぁ」
派手な音を立てて宏がコケた
「大丈夫かおんぶしてやる早く乗れ」
「ありがと兄ちゃん」
山を抜けた
「街だ」
「しっかりしろ宏梨沙子」
「うんありがと兄ちゃ...
ドサッ
背中から宏が落ちた
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
糞なんだなんなんだ
梨沙子だけだ何とかしても梨沙子を必ず守り抜く
「警察だあそこに行けばきっと助かるぞ」
「走れ」
言うより先に手を引いて走り出していた
「もう無理もう走れない」
「もう少しもう少しだから」
「そうだねごめんねお兄ちゃんいつも守って貰って」
「いつも言ってるだろ大丈夫だって」
「そっかありがとうい
手が滑ったような気がしたのはきっと気のせいだ
だって梨沙子は今の今まで
自分の手を染めていたのは紛れもない赤だった
「梨沙子梨沙子」
うつぶせに倒れている梨沙子を仰向けにした
「うわぁぁぁぁ」
梨沙子の手を握っていたはずの俺の手は
月明かりに照らされた赤い赤い照明は
梨沙子の目から流れ出る血だった
キュイン
俺が斬られたことに気づいたのは
自分の左手が地に落ちていたからだ
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「お前か」
低い声で俺に問いかける
「この娘を殺したのは」
俺は何も言えなかった
この人は何を知っている
「私の質問に答えられないのか!」
「違う違う違う梨沙子も武雄も宏も小夜子も貴子も母さんも」
「俺じゃないだってだって」
「もういい」
「どちらにせよお前を殺すことに変わりはない」
そんなそんな
俺が思う一瞬の間女の人は壁を伝って接近してきた
俺は身動きが取れず壁に寄りかかった
音も立てずに壁が崩れだした
(壁が)
女の人は驚いた顔をしていた
俺にはこの人がなぜ驚いているのか分からなかった
グサッ
首が切られた
ドンッ
女の人が俺の上に飛び乗ったきっと骨が折れているのだろう
俺はもう助からない
(みんな直ぐにそっちにいくからね)
そこから俺の意識はない
「こいつは」
キュイン
キーン
剣と剣のぶつかり合う音がした刹那空気が変わった
「その子は万やないん?」
「いいや千だ」