悪魔のような奴じゃ
「ああ、ごめんごめん」
ナサリアが戻ってきた。
「やっぱり保護者いるんだった?」
「やっぱりとは何だ」
「15歳未満は保護者が必要って決まりになってるのよ。私が保護者になるわ」
もう情けなくて話にならん。
どこの世界に、人間に保護者になってもらう悪魔が居ようか。
「借りができたの。私は何で返せばいい?」
「まあ、悪事を働かない事」
おうおう、悪事働く気満々だぞ。何せ悪魔だからの。
「それから、依頼を手伝ってくれる事。まあ当分の間、うちのパーティで働いてもらうわ」
「めんどくさいのう、しばらく拘束されるではないか」
「嫌ならいいわよ、ってもう保護者のサインしちゃったからよろしくね」
「そこは同意を取ってからにせぇよ」
まったく、悪魔のような奴じゃ。ん? 悪魔は私のはずだ。
仕方が無いので、私は文句を言いながらも登録書類にサインをした。
「はい、正式に書類を受領致しました。あとは無理をしないよう、実力を弁えて依頼を選んで、無事遂行してください。明日、ギルドの登録プレートをお渡ししますので、またいらして下さい。」
受付の女は事務的に答えた。
私の実力を見れば、保護者など要らんという事くらい、すぐに分からせてやるのに。
情けないやら腹立たしいやらで、破壊活動したくなったぞ。
とはいえ、さすがに手練も混じっていそうなこの場所で、元の姿に戻る訳にもいかん。ここは我慢、我慢じゃ。
悪魔ともあろう者が、我慢で成長するのかの……トホホ。
「アルデリーゼちゃん」
名を呼ばれて、我に返る。
いや『ちゃん』呼ばわりされるのはどうなのだ、私よ?
「何か?」
少々苛立ち気味にナサリアに応える。八つ当たりという奴じゃ。
「早速だけど、予定通り依頼を受けたの。付き合ってくれる?」
「飯くらいは食わせてくれ。今日は串焼き一本しか食っておらん」
「ああ、もうお昼過ぎてるのか。どうせ今日中に終わる仕事じゃないし、今からお昼食べて、アルデリーゼちゃんの旅支度もしようか」
その言葉に私はほっとした。
いかんいかん、私は飼い慣らされている場合ではない。
ナサリアについていくと、彼女は一件の店に入っていく。
「良い匂いがするではないか」
これが人間の食い物屋か。調査対象じゃな。
続いて店に入り、ナサリアと向かい合わせに椅子に座る。
ナサリアは壁にかけられた木札の文字を見て、店員に何やら注文している。
あれが食事のメニューなのだな。
では私も。
「あの赤い文字のやつをくれ」
「あいよ」
店員は注文を受けると奥へと引っ込んだ。
「あ…」
何だその反応は?




