こう見えてだな……
「困った…」
完璧だと思っていた変身に思わぬ穴が有った。
変身の効果を維持させるために触媒に姿を記憶させており、今更姿は変えられない。
変えるとしたら、手持ちの触媒を破棄し、再度同じ触媒を手に入れて記憶し直さなければならない。
「はぁ~……」
ため息をついた。
触媒とは竜の牙だ。おいそれと手に入る代物ではない。
魔法をかけ直して、別の姿になるにしても、触媒が無ければ変身の魔法の効果時間はそう長いものではない。触媒無しでの姿の維持など無理だ。
だからといって、魔法の連続使用などは問題外だ。
「むむむむ……」
見通しの暗さに、私は街の広場にへたり込んだ。
諦めて一旦帰るか、それともこの姿でなんとかするか。
どうしようかと悩んでいたところに、声をかけられた。
「ねぇキミ、魔法使い?」
「そうだが何か?」
私はぶっきらぼうに答えた。
いや、凹んでいて、思わずそういう感じに答えてしまっただけなのだが。
目の前には人間の雌……女が立っていた。
年齢的には、私の今の容姿より上である事は間違いない。私もこのへんの年齢にしておけば良かったと、さらに凹んだ。
ちなみに、人間の外見の良し悪しなど、私には分かるはずも無い。
「魔法使いならお願いがあるの。これから依頼を受けたいのだけれど、魔法使いに欠員が出てしまって困っていたところなのよ。手伝ってもらえるかしら?」
「別に構わんが……」
差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。
「あら、思ったより幼い……」
「悪いか? こう見えてもそこらの連中など相手にならんぞ」
相手の反応に食って掛かる。自分の誤りを指摘されたようで、少々苛立ったのが原因だが、若干大人気ない事をしたと思わないでもない。
「あ、うん、全然問題ないわ。気を悪くさせたなら謝る」
女は慌てて頭を下げた。
「本当の事だ、別に構わんが……。実のところ、いくつに見える?」
気になっていたことを聞いてみる。
女は一瞬悩む様子を見せる。
「12歳くらいかと思ったけど違うの?」
「いや、聞いてみただけだ。他意はない」
と言ったものの、人間のおおよその寿命と成人年齢を知っているので、内心相当ショックだった。
角とか羽とか分かりやすい基準が無いんだよ人間! と怒りは表情に出さず…
「それで、私に何をしろと言うのだ?」
気を取り直すとまでは行かないが、怪しまれぬよう、会話を続ける事にした。
「とりあえず冒険者ギルドまで一緒に来て欲しいの」
「ふむ、その冒険者ギルドとは何だ?」
「ああ、その年ならまだ知らないか……」
道すがら、女は冒険者ギルドというものが何なのかを教えてくれた。
何でも、冒険者の補助と依頼の斡旋、そして依頼者との仲立ちを行う場所らしい。
戦利品の買取や、身元の保証などにも役立つという話なので、行ってみて損は無いかもしれない。
ちなみに、まったく関係ないが、冒険者ギルドに着くまでに、私は3回ほど転んだ。
慣れない体というのもあるが、ローブの丈を誤ったのが主な原因だった。
「あいたっ!」
入り口でもう一度転んだ。