31.交差点
放課後。真麻と陽菜と一緒に、街に繰り出すことになった。服やアクセを買うぞーっとか、おいしいものを食べるぞーっとか、そういう話である。どこにでもあるような女子高生の日常、普段着の姿である。
モデルたる私は少なからず有名人なので、えっへん、それなりに男子や女子にいろいろとせがまれたりするのだ、えっへん。
今日もつかまった。電車の中で声を掛けてきた学ラン姿の男のコは、非常に礼儀正しかった。申し訳なさそうに「写真、いいですか……?」と訊ねてきて、私は「いいよーっ」と快諾し、笑った。「またかあ」といった感じで、親友二人は、それぞれ横にはけようとする。
すると、男のコはもじもじしながら、「い、いえ、三人、一緒でもいいですか……?」とあらためて訊ねてきた。おおぅ、やるじゃんって感心した。真麻も陽菜も非常にかわいいからだ。私に負けず劣らずかわいいからだ。その三人をまとめて写メろうとは、なかなか豪胆なことである。
私はアホみたいなことをわざと口にした。「三人ともオカズにする?」って。そしたら男のコは顔を真っ赤にして、裏返った声で「そ、そんなんじゃありませんっ」と否定した。「ただ、その……三人とも仲良さそうだな、って。楽しそうだな、って……」とくぐもった声で言った。
私は問い掛けた。「きみ、女友達はいないの」って。すると、「いません……」と返ってきた。「男子校なので……」ということらしかった。
「男子校だったとしても、積極的にいけばいいじゃん。今回みたいにさ、声掛けることもできるんだしさ」
「それがその、なかなか難しくて……」
「まあ、そっか。そうだよね」
男のコが少々距離をとった位置でスマホを構える。私達三人は顔を寄せ合い、「いえーい!」とそれぞれ頬の横でピースサインを作った。
「ありがとうございますっ。宝物にしますっ」
「そんなに恐縮してくれんなよなあ」
「でも、草薙さんは有名人ですし……」
「だけど、同じ高校生だよ?」
「それはそうなんですけれど……」
「またどこかで見つけたら、気軽に理沙ちゃんって呼んでやってよ。その時はいよいよ一緒に写ってあげるから」
「そんな、恐れ多いです……」
「恐れ多いとか。私ってば、そんな偉いニンゲンじゃないってば」
「あの」
「ん?」
「本当に、ありがとうございましたっ」
「律儀だね。でもマジ、頭下げることなんてないんだってば」
以降も男のコや女のコに声を掛けられ、写メを何枚も撮られたし、一緒に撮ったりもした。そのたび、私は笑顔を向けた。楽しい。本当に楽しい。メチャクチャ楽しい。生きているなって実感する。そう。私は生きているし、これからもまだまだ生きていくのだ。
真麻と陽菜と、きゃっきゃと騒ぎながら、歩みを進める。青信号になったところでスクランブル交差点を渡る。
その最中のことだった。
「よぉ、JK」
そんな声を聞いたような気がして、はっとなって「あっ」と声が漏れた。反射的に振り返る。だけど、その先に、「彼」の姿はなかった。
「どしたー?」
「なあに? なにかあったぁ?」
真麻と陽菜が、それぞれそう声を向けてきた。
アイツ、今、いたのかな?
それとも、いなかったのかな?
「なんでもないよーっ!」
私はそう答えて、前を向いた。笑顔を浮かべて歩き出す。
朔夜。
しつこいようだけど、もっかい言っとく。
あらためて、言っとく。
私、アンタのこと、一生、忘れないから。
かまってもらったのはほんの少しの時間だったけれど、忘れたりしないから。
マジ楽しかったです!
ほんとうにお世話になりました!
ほんとうにほんとうに、ありがとうございました!




