王宮訪問します
「ロレッタ、行くぞ」
ピアノのレッスンが終わり、休んでいた私を抱き上げ、車に乗りこんだ父。相変わらず目的語がない。
最近たくさんの習い事が始まった私は多忙な生活を送っている。
おかげで兄との散歩の時間も減ってきたし、少し寂しい。
そんな中、今日はピアノのレッスンしか無く、兄も教える側の都合で習い事がない貴重なお散歩の日だったのにまさか拉致られるとは。
「お父様、一体どうしたのですか?」
「......ロレッタに会いたいという者がいる」
珍しく気難しい顔をしている父。
あの離婚騒動が起こった日まではずっとしかめっ面だった父だが、元は穏やかで、何事も受け止めます、みたいな顔をしている。実際の性格は別として。
ちなみに私は父似である。
お陰様で悪役令嬢とは思えぬ優しい顔つきをしている。
これもまたついでだが、兄は母似である。
母は消えてしまいそうな儚い美しさをお持ちだ。こちらも実際の性格は別として。
そんな母に似た兄は、一見弱々しい。
本人も最近気にし始め、習い事に格闘技が追加された。
閑話休題。
父に拉致され連れて来られたのは、王宮だった。
煌びやかなこの建物は一般人が簡単に入れる建物ではない。
そんなところに何故招かれるのかと言うと、エアリー家がこの国の三代公爵家の1つに入っているというのと、父がこの国の宰相だからだ。
ここまで言うと何となく王太子が私の婚約者なのでは......?と思う人もいるかもしれない。
まぁそんなわけないんですけどね。
一応攻略対象の中にはいるが、私を捨てそうになった父が王太子と婚約なんてさせるわけが無いでしょう。
今は違うとはいえ、それでも父はこの国の国王と王太子に対して我儘だ、横暴だと愚痴を言っていたので、婚約はありえない。
ちなみに国王とはかなり古い付き合いらしいので、愚痴を言ったところで国家反逆罪にはならないらしい。
さて、それらを踏まえた上でもここに連れてこられた意味がわからん。
そして父が私を抱っこしながら移動するのも意味がわからん。
あの日よりかなり優しくなったとはいえ、過保護ではないし、どこにでもいる普通の父だった。決して3歳の私を抱っこして移動するような人じゃない。
だけど私も嫌ではないので、その状態で謁見の間に移動する。
父は扉の前に立つボディーガードさんに顔を見せただけで通された。これが顔パスというやつである。
顔パスで通された謁見の間は非常にキラキラしていた。それはもう目がチカチカしてしまうくらいに。
......正直、王様のセンスを疑った。
父も少し顔を顰めたが、ある程度は慣れているのかそのまま豪華な椅子に座る国王の前まで臆することなく歩いていく。
「これで良いか、ロバート」
「良いわけなくない?」
意味のわからない言葉に、国王のふざけた態度、私の頭はもう考えることを放棄した。
ちなみに私は父に手で口を塞がれているので話すことは出来ない。
一応口だけなので鼻で呼吸は出来ているが、何となく苦しい。
「なんでロレッタちゃんは口を塞がれてるわけ?」
「貴様如きが娘の名を口に出すな。口を塞いでいるのはお前と会話して娘が汚れるのを防止するためだろうが」
周りに王妃らしき人や、ボディーガードさんもいるのにこの態度。父すごい。
「相変わらず僕の扱い酷いよね」
「改善して欲しかったらそのふざけた態度をどうにかしろ」
「えー、別に普段ちゃんとしてるんだからいーじゃーん」
国のトップ達がこんなんで大丈夫かと思わなくはないが、一応この国は、世界的に見てもかなりの先進国に位置しているので、一応なんとかなっているのだろう。
これを見た人達は決して信じられないだろうが。
それにしても私は一体何故呼ばれたのだろうか。
そう疑問に思っていると国王がニコニコ笑顔で説明してくれた。
「ロレッタちゃん、初めまして。一応この国の王様です。ロバートって呼んでね。今日君を呼んだのは、君の父とそういう約束を交わしたからだよ」
そろそろ苦しくなってきたので父の手を外し、王様と話す。
「お初にお目にかかります、ロバート様。約束とは一体何のことでしょうか?」
「慣れない言葉を一生懸命話してくれるのも可愛いけど、そんなに固くならないでいいよ。見ての通り完全にプライベートだから。僕をお父さんだと思って話してみなさい」
3歳らしい拙い口調で頑張ったら慈しむような目で見られた。なんだかちょっとくすぐったい。
とりあえずこれでプライベートと言われても納得は出来ないが、本人が許可をくれたのだから遠慮なく普段通り行かせてもらおう。
「ロバートさん!約束ってなんですか?」
「それはね、君のお父さんに子供がいるところを想像出来ないから、子供が3歳の時に僕に会わせる約束をしたんだ。アドニス君の時は普通に見せてくれたのにね」
「お父様......そんな約束してたんですか?」
「......まさか子供が2人も出来るなんて思わなかったからな。それに約束のことなど覚えていなかったんだ」
兄が3歳になった時に国王から催促がきてようやく思い出したらしい。
その頃にはロレッタも産まれているので、二度この約束を果たしに来なければならなかった事が、苦痛で苦痛で仕方なかったそうだ。
だけど、国王は優しいし、何故そこまで嫌がるのかが分からない。
......と思ってた時もありました。
「さて、じゃあロレッタちゃんをこっちに寄越してもらおうか。女の子を着飾ってみたかったんだよね。うち、男しかいないし」
そういって腕を伸ばす国王は物凄く怖かった。狂気的だった。思わず父にぎゅっと抱きつく力を強めてしまうほど怖かった。
父も体を強ばらせていた。
そしてここで全てを悟る。
きっと父や母も着せ替え人形になったことがあるのだろう。
2人とも見た目は抜群だ。
国王や王妃も見た目はいいが、うちの両親とはまた別の系統なので、その被害状況は何となく想像できる。
そして幸か不幸か、私は父の女版と言うほど似ている。
私はどれだけの時間拘束されるのか想像したくもない。
「お前には絶対渡さんぞ、ロバート!」
「いいや、絶対に渡してもらうよ。どれ程お前が女だったら良かったか......何度そう思ったか、分からないだろう?」
「分かりたくもないわ!」
父と国王が言い合いをしている間、私はスルッと父の腕の中から抜け出し、近くに立っていた私専属のボディーガードのオーウェンに駆け寄った。
「オーウェン!お父様を助けて!」
「かしこまりました」
基本、私に忠実なオーウェンは、例え相手がこの国のトップであろうと容赦しない。
「ちょっ、待って待って待って!?ニコルのところのボディーガード、なんて教育されてるの!?国家反逆罪なっちゃうよ!?」
慌てる国王に、何故かオーウェンを止めようともしない国王のボディーガード達。
ちなみにニコルとは私の父のことである。
「ロバートさん......オーウェンのこと殺すの......?」
「ごめんよ、ロレッタちゃん!冗談だよ!だから泣きそうな顔しないで!」
「やったぁ!もっとやっちゃえ、オーウェン!」
「ちょっとぉ!?エアリー家どうなってるの!?」
「ロレッタにオーウェン、さすがとしか言いようがないな」
「感心してないで止めてよ、ニコル!」
そろそろ本気でオーウェンが国王のことを殺しそうなので止めに入る。
「ごめんね、ありがとう!オーウェン!もうスッキリしたから大丈夫!」
「いえ、大したことではございません。何かあったらまたお呼びください。お嬢様のためなら手を汚すことも覚悟出来ております」
「このボディーガード、笑顔でなんてこと言ってんの!?ニコル、本気で教育し直しなよ!!」
「オーウェンにはボーナス追加だな」
「誰かエアリー家に僕がこの国で1番偉いってこと教えてくれないかな」
「それでは帰るとしよう」
国王のことをガン無視し続けた父は、また私を抱き上げてそのまま扉へ向かう。
「ちょっと!?何帰ろうとしてるの!?」
「次仕事の期限すぎたら、その時はお前の命はないと思え」
それだけ言い残して謁見の間を出た父はかなりの強者である。
堂々と殺害予告をしたのに、ボディーガードさんがすごい良い笑顔で扉を開けてくれた。
「またお越しください、エアリー様」
あなた達は何か国王に恨みでもあるのかな。
私達は王宮中の使用人に良い笑顔で見送られながら車に乗り込む。
こうして初めての王宮訪問は幕を閉じた。
楽しかったけど、また来ようとは思わない。




