蕎麦
次の日には普通に僕たちの後ろに座っていたトゥーリだけど、前日のことをいくら聞いても答えてはくれなかった。まぁ、聞いたのはミカだったんだけどね。
けれど、すぐに真相には辿り着けた。
おいトゥーリ! ちょっと蕎麦でも買って来てくれよ!
休み時間に突然、アピナがそう叫んだ。僕たちとは離れた席からね。
僕はシカトするものだと思っていたけれど、トゥーリの反応には驚いたよ。まさかだよな。分かりましたと呟きながら立ち上がり、蕎麦を買って戻って来たんだから。
席に戻ったトゥーリに対し、ミカが口を開いた。どうしてあんなのに従うの?
トゥーリはなにも答えず、ただその首を振った。
僕は立ち上がり、蕎麦を啜っているアピナの目の前に立ったよ。そして、その蕎麦を奪い、一気に口に流し込んだ。熱かったけれど、我慢をした。湯気が立っているスープも一緒に流し込んだのは間違いだったかも知れないけれどね。
なんの真似だよ!
アピナの怒りは当然だよな。食事を邪魔されるっていうのは、最高の侮辱だと思う。
トゥーリになにをしたんだよ! またいじめか? そういうの、いい加減に卒業したらどうだ? 誰も得しないんだ。そうだろ? どうせまた、お前が恥をかくことになる。ミカにだって嫌われるだけだぞ。
僕がそう言うと、アピナは顔をしかめて、余計なお世話なんだよ。そう言い返してきた。
僕は定位置に戻り、振り返ってトゥーリに声をかけた。
アピナのいいなりになるってことは、なにか弱味でも握られたんだろ?
それしかないって確信はあったけれど、トゥーリが否定する。なにもないよ。呼ばれたから行っただけだ。別に問題はない。
その場では、そうなのか、って言葉を残したけれど、納得なんてしていない。それはモネーもミカも同様だった。
その日トゥーリは、三度ほどアピナに呼び出された。指示を出され、その全てに従っていた。僕たちはもう、なにも口出しはしなかった。




