レパコ菌
屋上へ辿り着くと、そこにカッカの姿はなく、アピナとセイナがいるだけだった。途中で騒ぎもなかった。あの姿のカッカを見れば、悲鳴ぐらい誰だってあげるはずだ。しかし、そうはならなかった。
カッカはどこにいる? 僕がアピナにそう聞いた。
ここにいると思って来たんだけど、いないんだよ。
アピナは知ってたのか? カッカが変化するって?
知るはずないだろ! 可能性はあったかも知れないけどな、俺だって初めて見るんだよ。ああなったら最後だ。あれは目的が達成するまで暴れるんだぞ! そして周りの数人に噛みつき、体内の菌を全て移し終えると消えて無くなる。ミカと結ばれるよりはその方がましかも知れないが、そんなことさせてたまるか! 止める手立ては一つだぞ。海に突き落とす。それしかない。
アピナが言うにはだけど、コウモリ男になるには、悲しみのバラードを聞く以外の絶対的条件があるそうなんだ。レパコ菌と呼ばれるウィルスが体内に存在すること。レパコ菌は人の体内の血管内でないと生きていけない。そのため、噛み付いて感染させるそうなんだ。コウモリ男に変化すると、鋭い歯が生えてくる。そしてその歯には穴が開いていて、圧力がかかるとそこから血が流れ出る仕組みになっている。
レパコ菌は、体内に存在していても発症せずに一生を終えることもあるそうだ。悲しみのバラードを聞いても変化しない感染者も多いという。しかし、なにはともあれ、犠牲者を出すわけにはいかない。
やめてよ!
その叫び声が誰のものかは明らかだった。僕は危険に晒せないためにとミカを置き去りにしたんだけど、見事なほどの裏目だったんだ。




