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Summer Day   作者: Chie
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5月の出会い

 3年3組の教室、前から4番目、一番窓側の席に座って、窓から外を眺めていた。5月の緑は深緑より黄緑の割合が多く、奈津の好きな色合いだった。朝学も終わり、担任の中野先生が教室に来るのを待つ、小休止の時間だった。ガラガラガラ・・・古い(先生たちは伝統校と言ってるが)県立高校にありがちな木製の引き戸が勢いよく開き、はつらつとした40代半ば、お化粧ばっちりの中野先生が入ってきた。

「モーニン!!エブリバディ!!」

なぜ、英語の先生は、いつもこのテンションなんだろう。でも、朝一でこの笑顔を見ると奈津は、寝ぼけた頭がムクッと目を覚ます気がして、なんとなく心待ちにしているところがあった。

「モーニン!!」あちこちでバラバラに先生に挨拶を返すみんな。男子の野太い声も混じる。

「あ、入って。カムイン!!」

それはいつもと違っていた。先生は教壇のところまで来ると、木製の戸の方を向き、誰かに促した。初夏の日差しの中、すっと学生ズボンの細くて長い足が戸の向こうから現れた。そして、それに続いてやけに色の白さの目立つ顔が、5月の光の間から顔を出した。一瞬教室がどよめく。誰なんだろう・・・。背は高め・・。全体的に細く、タンチョウヅルのようなほっそりとした鳥を連想させる。顔は・・・男子のわりに白いけど、整ってる方・・かな?黒縁の眼鏡をかけてて、眼鏡の奥の目は一重で涼しげな感しだ。窓際からその彼を頭のてっぺんからつま先まで一通り物色する。教壇の先生の横まで来ると、その彼は一瞬下を向き、顔を上げるのと同時にみんなの方に体を向けた。その顔は緊張しているのか無表情に近かった。どちらかと言えば、かっこいい方の部類に入るのかもしれないが、なんとなく覇気もなく、今流行りのオーラ?というものも皆無で、なんだかモテる・・・とかとは縁遠い地味~な感じのする子だ。

「転校生を紹介するわね。」

そう言って、黒板の方を向き、チョークで大きめに書き始めた。

「はい、『田村 弘輝』タムラ コウキ君です。」

「田村君、挨拶して。どうぞ!」

チョークをおいて、手をハンカチで拭きながら先生が促した。

「あ・・・、僕・・・タムラコウキ・・・と言います。あの・・・よろしくお願いします。」

少しくぐもった声で、その彼は、とぎれとぎれに自己紹介した。

「どこから来たん?」

男子の1人がぶしつけに尋ねる。

「えっと・・・それは・・・」

その彼・・・転校生のタムラ君が口ごもり、下を向き、しばしの沈黙・・。沈黙を打ち破ったのは先生だった。

「は~い、それは個人情報!みんなも根掘り葉掘りは聞かないように!みんなだって嫌でしょ。いろいろ聞かれるの。」

「え~。でも、高校で転校生って珍しいからさ~。」

質問した男子の返事にみんなも「うんうん」と頷いた。確かに高校になって転校生は初めてだ。しかも大学入試を控えた3年生になってからなんて。それに、入学試験を受けて、高校に入ってくるから、転入も小中学校のようにはいかない。それでも欠員がある場合のみ、その分だけ、編入試験を受けてパスしたら入れると聞いたこともあるような・・・。お父さんの転勤か何かで山口に来ることになって、前の学校と同じような進学高校であるこの高校に編入試験を受けて入ってきたのかな・・奈津の頭にそんなシナリオが浮かんできた。うん、きっとそんな理由に違いない。前の学校の偏差値となんとかって話になったら、いろいろめんどくさいもんね。そりゃ言いたくないや。奈津はは勝手に彼の転校のいきさつをえらく簡単に推測して、もうそれで納得してしまった。

「じゃあ、席は廊下側の一番後ろ。松田君と大田君は1階行って、机といす持ってきて。」

「は~い。」

素直に返事をして、顔を見合わせ、無言の「行こうぜ!」を目で合図して2人は出て行った。彼・・タムラ君はぺこりと先生に頭を下げると鞄を肩にかけ、ゆっくり教室の後ろに向かった。

「ねえ、前の学校では何か部活に入ってた?」

タムラ君が横を通った時、廊下側の席に座ってる奈津の親友のまなみが挨拶代わりに聞いた。

「え、部活?・・・特に・・何も・・・」

タムラ君は静かに首を横に振った。

「そうなんだ!色白いから、外の部活ではないだろうな~と推理はしたんだけど、吹部とかバスケ部とか室内系の線もあるな~っと。でも、な~んだ部活やってなかったんだね~。それじゃあ、もしかして帰宅部?」

さすが、我が親友ながらあのズケズケさには関心する。

「キタク部?・・・ってそれ何?」

立ち止まったタムラ君は不思議そうにまなみを見つめた。

「帰宅部よ、帰宅部!なんの部活にも入らず、授業が終わったら、おうちに帰っちゃうってこと!」

げげ、まなみ、タムラ君ムッとしてない?いきなりぶしつけな!そんな奈津の心配をよそに

「うん、そんなとこ。」

そう言って、タムラ君は初めてにこっと笑った。真っ白い歯をのぞかせ、眼鏡の奥の涼しげな目をもっともっと細い糸目にして・・。

 そんなやりとりをしているところへ、先ほどの男子たちが机と椅子を抱えて戻ってきた。廊下側の一番後ろに2人がそれを設置すると、タムラ君は、

「ありがとう。」

そう言って、2人にまたあの笑顔を返すと、鞄を机の横にかけ、スッと静かに席に着いた。短いマッシュルームの黒髪を5月の光になびかせて。


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