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仁藤新菜の振り返り


 買った服は大きめの袋にひとつにまとめて入れてもらった。その袋は清磁くんが持ってくれている。彼は右手の手首に袋の持ち手を引っ掛け、その手は薄手のパーカーのポケットに入れられている。反対の腕には、私がしがみついている。


「清磁くん。この後、どうするの? 帰る?」


 私たちは休日でもそこそこ早起きだけど、今日は家を出る前に1回してきたので、もうお昼時だ。家に帰ってから昼食を摂るのかと思ってそう訊くと、清磁くんは首を振った。


「折角だからもうちょっと遊んでいこうよ。こういうの、久しぶりだしさ」

「……うん」


 返事をしてから、その声が思った以上に儚げだったことに気付いた。清磁くんは気付いたかな……と思って彼の方を見ると……苦笑いしていた。


「やっぱりまだ、人の多い所は怖い?」

「……怖い、かも」

「そっか……まあ、安心して。ちゃんとおれがエスコートしてあげるから。それじゃまずは、紀伊国屋書店ね」


          *


 本屋の後にも、色々な場所を巡った。


 ランチタイムにはフードコートに行った。清磁くんは脇目も振らずにラーメンを2人分注文した。別に不満はないし好きだからいいのだけど、私に何も訊かずにメニューを決めるのは珍しいな、と思った。


 食べ終えると、清磁くんが何故か持ってきていた教科書を開いて、数十分だけ勉強をした。食後とあって私は途中でウトウトしてしまい、気が付いた時には清磁くんの肩に頭を乗せ、撫でられていた。周りに人はそんなに多くなかったけど、少し恥ずかしかった。


 それから、これもモール内にあった映画館で、毎年観にいっていた国民的アニメの映画を観た。私はシアターに連れられてきてから始めて、今年はまだ観ていなかったことを思い出した。


 劇場を出るとモールを後にして、今度はカラオケに連れてこられた。だけど、1時間も歌わなかった。その代わり、個室に入って30分ほど経った頃には、清磁くんは脚の間に私を座らせ、2人で一緒に本を読んだ。カラオケで読書とはミスマッチな気がしたけど、人のいない空間だったのでけっこうリラックスできた。


 その後は、道にあった神社に参拝した。いつか初詣に来た神社だ。何でこんな時期に? と思ったけど、いいからいいから、と言われ、とりあえず「清磁くんとずっと一緒」をお願いしておいた。


 いつの間にか、緊張は解れていた。

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