仁藤清磁のアッパー!
「やめろ、彼女はおれの女だ」
「……あ?」
相手の体格がいいのでぶっちゃけ怖かったんだけど、自分を鼓舞する意味でそんなカッコつけたことを言ってみると、金髪と茶髪が同時に振り返った。奥の新菜も、驚いたように目を見開いている。
「何だお前」
「だからその子の彼氏だって。今消えれば見逃してやるから、離してくれる?」
「ァア!? やんのか!」
そんなテンプレのような言葉を吐き、金髪はおれの胸ぐらを掴んでくる。茶髪の方も新菜を捨て置き、こっちに詰め寄ってきた。
あ、これは大丈夫かも。
「清磁くんっ」
2人に囲まれたおれを見て、慌て、怯えるように新菜が叫ぶ。
――掴んできたし、もう手ぇ出していいかな。
金髪の方は胸ぐらを掴みながら顔を上に向け、視線だけおれの方を見るというこれまた典型的な眼飛ばしをしている。顎が無防備なので、おれはそこに力を込めてアッパーをかましてやった。
「ぐぉっ!?」
まともに拳を喰らった金髪が仰け反る。茶髪が驚いてそっちを見た瞬間、おれは茶髪の方の頭を掴み、金髪の頭と衝突させた。
「ってぇ!」
チャラ男たちが頭を押さえている間に回り込んで新菜の腕を取り、物陰から引き出す。ここなら、何かあっても誰かしら気付くだろう。
「調子乗ってんじゃねぇぞこの野郎!」
茶髪が復活して、思い切り右拳を振りかぶる。動作が大きすぎて隙だらけだったので、そいつが耳につけていたリング状のピアスに指をかけた。
「それ以上やったら、これ引っ張るよ」
おれがそう言うと、茶髪は動きを止めた。暫く硬直した後、
「……行くぞ」
と言って腕を下ろし、2人でどこかへ行った。
「ふう……あいつら、ファッションヤンキーだな。流石に弱すぎだよ。あれ、そういえば何で改札の中でナンパなんてしてたんだろう……新菜?」
一応ヤツらの後ろ姿が見えなくなるまで見送っていると、新菜が人目を憚らずに勢いよく抱きついてきた。
「せ、清磁くん、清磁くん……怖かった……怖かったよ……」
「新菜……?」
なんだか、思っていた以上に怖がっている。人をかき分けてくるのに手間取ったものの、多分ヤツらに声をかけられてからそれほど経たずに助けに入れたと思ったんだけど……。
ヒックヒックと泣く新菜の頭を撫でてやりながら、おれは宥めるように言い聞かせる。
「大丈夫だよ、あいつらはもういなくなった。羽生たちも帰ったし、一緒に帰ろう。だから、落ち着いて」
「………………うん」
新菜は時間をかけて深呼吸をし、気持ちを鎮めた。ハンカチで涙を拭ってやると、とりあえずは落ち着いたようだ。
「……清磁くん、ありがとう」
「どういたしまして。ごめんね、こんな時間に一人で帰しちゃって」
まあそうなるように仕向けた? のは藤原先輩なんだけど。でも流石にこれに関しては藤原先輩に非があるわけじゃないだろう。
フルフルと首を振った新菜は、ギュッとおれの手を握り、更に反対の手をおれの肘の辺りに添えた。凄い密着度。
「それじゃあ……帰ろっか」
コクン、と新菜は無言で頷いた。




