仁藤清磁の本気(2)
「あはっ、清磁くん可愛い! 写真撮ろ!」
「ええ……?」
じゃれつきながら向かったペットショップでは、何故か新菜は爬虫類のコーナーに直行した。かと思うとケースの中のヘビを見つめてうっとりし始め、暫くそこを動かなかった。もう新菜との付き合いも随分長くなるけど、そんなにヘビが好きだなんて知らなかった。
新菜は「飼いたい……」と呟いていたけど、両親と一緒に住むおれたちの独断で飼い始める訳にもいかない。そこでおれたちはちょっとしたゲームセンターのようになっているアミューズメントエリアに赴き、通りがかりに見つけていたヘビのぬいぐるみをUFOキャッチャーで獲得したのだった。因みにこのぬいぐるみ、タグには「抱き枕」と書いてあるが、長さが1m以上もある上に腕よりも細いため全然抱き枕っぽくない。というか抱けない。
で、持ち運びをどうしようとあれこれ試した結果、首に巻いて歩くのが一番運びやすいということになった。「私はネックレスつけてるから」という新菜の謎の主張により、今はおれの首にヘビが巻き付いている。間抜けなことこの上ない。
しかしそんなおれwithヘビを新菜はいたく気に入ったらしく、はしゃいだようにスマホを取り出し内カメラにする。
「撮るよ! はい、チーズ!」
ぱしゃ。
「これ、新菜のために捕ったんだけどなあ。おれが首に巻いた写真でいいの?」
「いいのいいの……うん、可愛い」
写真を確認してご満悦の新菜。まあ、新菜が喜んでるならいいや。
その後3曲だけ太鼓の達人をやって、移動することにした。お次は新菜の希望で服だ――と思ったのだけど。
「あ、唯音だ」
無印良品の目前まで来たところで、その店内に陽下を発見した。彼女は試着室の前で、傍の服を眺めている。
「なんか今日は知り合いをよく見かけるなあ」
「確かにね……声かけてみよっか。いおーんむっ」
言いかけた新菜の口をおれが塞ぐ。……掌で唇が動いてくすぐったい。
「ほひたのせーひくん」
「いや、こんな間抜けな格好知り合いに見られたくないし……それに、ほら」
おれは新菜の口を押さえたまま2歩動く。すると、新菜も気付いたようだった。
「あ、シン君」
商品に遮られていた所に、シンの姿があった。彼は陽下と何やら話している。2人とも楽しそうな笑顔だ。
「そういえばこの間、唯音が彼氏できたって言ってたけど、もしかして……」
「あ、やっぱりそうなんだ」
2人の雰囲気を見て、デートかな、と思ったのだけど、どうやら正解だったようだ――
「あ、違うみたい」
どうやら不正解だったようだ。というのも、シンと唯音の向こうにあった使用中の試着室のカーテンが開き、中にいた同い年くらいの女の子が2人に話しかけたのだ。試着した服の感想を述べてるみたいだし、3人で遊びに来たってことだろうか。
「まあデートじゃなかったとしても、声かけるのは止めておこうか。おれ、あの子知らないし」
「そうだね」
とか言ってる間に更に2人の女子が彼らの許に集まった。なんだ、普通に大人数で遊んでただけか。
「さて、じゃあどうしようか。とりあえず服は後回しにして――」
そこまで言って、新菜が数十メートル先のアクセサリーショップを見ていることに気付いた。
「わかった、あそこね」
次の目的地が決まった。
*
「わあ……」
ショーケースに並べられたネックレスやピアスなんかを順に見て嘆息する新菜。そんな彼女についていくおれ。そんなおれに巻き付くヘビ。シュールだ。
新菜は楽しそうだけど、この店の品はどれも女性向けだし、店員さんもヘビを身に付ける奇特なカップルに足踏みしているのか話しかけてこない。少し退屈だ。
そういえばシンや陽下の通う高校とこのショッピングモールはそんなに近くないけど、わざわざ電車で来たのかな。それとも家は近いのだろうか。富田は……藤原先輩の車で来たとかだろう。あの人免許持ってそうだし。
ふと気付くと、新菜は指輪が並ぶケースの前で立ち止まり、真っ直ぐに商品を見つめていた。……うん、高い。
「…………指輪……」
「……新菜、欲しいの?」
おれがそう訊くと、新菜は品物を見るため前屈みにしていた体を起こして答えた。
「今は、まだいいかな」




