仁藤新菜の本気
昼頃にカラオケをお開きにした後、私たちは大型のショッピングモールへと足を運んだ。まずは昼食を済ませ、適当にウィンドウショッピングする予定だ。冷やかすだけでも回りきれない数の店がここには入っている。
「新菜、どこ行きたい?」
「うーん、ペットショップとか?」
「よし行こう」
即断即決の清磁くんだった。
というわけで私たちはペットショップを目指して広大なモールを歩き出す。見渡してみると、けっこうカップルが多いんだな。そんなことを考えていると、不意に清磁くんが前方を指差した。
「あれ、藤原先輩と富田だよね」
「どこ? ……あ、本当だ」
確認すると、雑貨屋の通路に近い棚の前で笑い合う2人の姿があった。……藤原先輩の笑顔って、初めて見た気がする。
「藤原先輩って笑うんだ……」
私よりも先輩と付き合いのある清磁くんもそう呟いた。やっぱり珍しいんだ。ってことは、瑠奈とうまくいってるのかな。
なんとなくそのまま立ち止まって、瑠奈と藤原先輩を眺める……と、突然2人は、どちらからともなくキスをした。
「うわ……っ」
瑠奈が幸せそうな顔をしている……可愛い……。
「なんか、見てはいけないものを見てしまった気分だ」
清磁くんはそんな2人から目を逸らして言う。……そこでちょっと思い付いた私は、試しにこんなことを言ってみた。
「ねえ清磁くん、私たちもキス、しちゃおっか」
「えっ」
あ、驚いた。いい反応。
面白くなってきた私は調子に乗って続ける。
「ほら、瑠奈たちもしてたし……それとも、嫌?」
「嫌なわけないけど……人いるし……」
照れてる照れてる。まあでも私も本気じゃないし、これくらいにしておいてあげよう。
「冗談だよ。照れた清磁くん、かわいかったよ。ふふ」
「く……」
清磁くんは悔しそうに唸った……かと思うと、
「新菜」
「え、はい……わっ」
突然名を呼ばれ虚をつかれた私の手をぐいっと引いた。
そして、キスした。
「…………っ!」
すぐに離れて、辺りを窺う。幸い、視線をこっちに向けている人はいない……と思う。
そんな私をからかうように、清磁くんは意地悪な笑みを浮かべた。
「照れた新菜、可愛かったよ」
「……!」
やられた……!
「さ、行こうか」
赤面する私に対して、清磁くんは平然と手を引いて歩き出す。……悔しい。
「あ、ねえ清磁くん。こっち向いて」
「なに?」
キスしてやった。




