仁藤清磁の案内
王帝の文化祭は9月の上旬、夏休みが明けてから割とすぐある。中学の時の友達の話を聞くと、文化祭というのはクラス単位で何かをする場合が多いらしいけど、うちでは「サークル」という有志の団体によって出し物が催される。サークルを構成する単位は、最も多いのが部活動だ。社会研究部も一応サークルを作っていて、校内のいくつかの場所に部誌を置いて「ご自由にお持ちください」という張り紙をしてある。
つまり何が言いたいのかというと、文化祭当日の今日、おれと新菜は遊ぶだけでいいということだ。
「シンたち、もうすぐつくって」
開演数分後、おれたちは校門近くでシン一行を待っていた。彼は同じ学校に通っている友達を何人か連れてくるらしい。
「あ、清磁くん、あれじゃない?」
新菜に言われて門の向こうを見てみると、こちらに大きく手を振るシンがいた。一緒にいるのは……4人か。
「清磁、仁藤ちゃん、こんにちは!」
男女2名ずつを引き連れたシンは、いつかのように爽やかな挨拶をした。けど、今はそれどころじゃない。
「あれ、理玖!?」
「清磁に仁藤さん、久し振り!」
シンの友達の中には、中学3年の時のクラスメイト、雨野理玖がいた。
「シンが2人に会いにここの文化祭行くっていうから、ついてきちゃった。びっくりした?」
「そりゃしたよ……事前に言ってくれればよかったのに」
「サプライズだよサプライズ。あと、もう1人」
理玖は場所を開けて、もう1人の男のためのスペースを作った。そこにいたのは──
「外村君……」
「あー……久し振り。森山も」
中3の1年間、同じ塾に通っていた外村だった。
「うん、久し振り。外村もシンと同じ学校だったんだ」
正直、外村に対して複雑な思いがないとは言い切れないものの……新菜によると、外村はおれと新菜が付き合っていることを知らないかもしれないらしいので、おれはそんなことは態度に出さず、普通に再会を祝した。
「よし、じゃあ旧知組の再会が済んだところで、次は初対面の2人ね」
そう言ってシンは、一緒に来ていた女の子2人を前に出す。
「羽生六花です。今日はよろしく!」
羽生は、髪をポニーテールにした子だった。尚、この時期は新菜も毎年ポニテなので、今日は視界に2本の尻尾が揺れることになる。
「陽下唯音です。えっと、よろしくね」
羽生に続いて名乗った陽下は、ボブカットの小柄な子だ。視線や立ち居振舞いから、控えめそうな印象を受ける。
「仁藤清磁です」
「仁藤新菜です、よろしくね」
「よし清磁、案内頼むよ!」
自己紹介が一通り終わったところで、理玖がはしゃいだような声をあげる。
「わかった。みんな、何から見たい?」
「お昼がまだだから、僕はとりあえず何か食べたいかな」
「あ、私も。このバームクヘーン屋さんっていうのは絶対行きたい」
シンと羽生がパンフレットを片手に主張する。なら、まずは腹ごしらえってことでいいかな。
「それじゃあ、食べ物の多いエリアでいいかな?」
「さんせーい」
「さんせーい!」
「……オレは別に何でも」
「唯音は?」
おれの問いかけに対して、羽生、理玖、外村が答える。シンに訊かれた陽下も頷いているから、全会一致だ。
「それでは行きましょう、王帝文化祭へ」
おれは先陣を切って歩き出す。それにしても、全部で7人とはなかなかの大所帯になったな。




