森山清磁の面白い話
次の日の昼休み、おれはまた図書館のカウンターで萩原と話していた。
「森山君、何か面白い話して」
「使い古された無茶ぶりがきたよ」
実際にこんなの言われたの初めてだ。だが、しかし。
「でも今日は面白い話、あるんだよね」
「まあ」
この反応、自分から振っておいて「どうせ面白い話なんてない」とか思ってたな。
今はこの1階にもいくらか人はいる。あまり大勢に聞かれたい話ではないので、おれは萩原の耳に顔を寄せた。
「まだ言いふらさないでほしいんだけど。実は──」
「随分、仲、良さそうだな」
葉山だった。
この一言ずつ区切った言い方……まあ、分かるけど。確かにこんな距離で会話してたらそう言いたくもなる。
「あら、湊。もうそれ読み終わ──」
「森山、あんま調子乗んなよ」
葉山がぐいっとカウンターに身を乗り出してくる。……けっこう怒ってるな。
「ごめんごめん、でもおれにも萩原にも他意がないのはわかるでしょ?」
「…………」
「ほらほら湊、妬かないの。一昨日の私たちだって『仲良く』したでしょう?」
……あ、葉山がちょっと赤くなった。意外とウブなのかな?
「……ま、いいや。これ返却な」
「はぁい」
少々剣呑な空気を気にもせず、萩原はバーコードを読み取った。おれがPCでカタカタッとやって、完了だ。
「じゃあ」
葉山はそう言って図書館を出ていった。
「湊、割と照れ屋さんよね」
「そうみたいだね」
予鈴が鳴ったので、おれたちも教室に引き揚げた。
*
そのまた翌日、これも図書館にて。例によっておれと萩原は、人の少ない図書館で雑談していた。棚に隠れて見えない所に人がいないとも限らないのだけど、まあうるさいってほど大声で話しているわけでもないし、構わないだろう。
「ねえ、昨日の話、本当なの?」
「間違いないと思うよ」
昨日葉山がジェラシーしてきたことで続きを言えなかった話だ。萩原、目が輝いてる。
「本当なんだぁ。なんだか、よくあるラノベみたいね」
「ラノベだったら恋人になる方が後じゃない?」
「ああ、それもそうね」
一瞬、会話が途切れる。途切れるっていうか、一段落しただけだけど。
「そういえば森山君、どんな女の子が好きなの?」
この訊き方、恋バナっぽくなくもないが、話の流れからして「ラノベのヒロインだったらどんなのが好き?」ってことだろうな。
「どんな……うーん、そんなにいくつも経験してきたわけじゃないしなあ」
実際、おれの読書経験のうちライトノベルが占める割合は2割くらいだと思う。その程度で「好きなヒロイン」の傾向って、わかるものだろうか。
「あ、でも大人びたキャラとか好きかな。確か新菜もそんな感じだったし」
新菜は殆どライトノベルは読まないけど、前にオススメしたシリーズの中ではお姉さんっぽい口調のキャラクターが好きだと言っていた。
「へぇ。カップルって似るものなのかしらね」
「そうかも……お、葉山」
昨日に引き続き葉山が来た。葉山ってけっこう本読むんだな。
「湊、最近よく来るわね」
「…………」
「返却期限は1週間後でーす」
萩原にもおれにも何も言わず、葉山は去っていった。……どうした?
「なんか今日の葉山、機嫌悪そうだったな」
「そうね……生理かしら」
「いやそれはないから」
釈然としないおれたちを他所に、チャイムが鳴った。




