森山清磁の図書当番
この学校の図書館は他の教室などがある棟とは分かれていて、それらと渡り廊下で繋がれた2階建ての建物になっている。おれは今週、ここで図書委員としてカウンター当番を命じられていた。
「意外と借りにくる人って多いのね。私、読みたい本は自分で買っちゃう」
「おれも自分で買う派だな。図書館まで来るの、正直めんどくさいし」
各クラスの図書委員は、決められた期間カウンターで本の貸し借りについての手続きを行うことになっている。今は人が途切れたので、同じクラスの図書委員である萩原沙也加と雑談中だ。
萩原は、ロングヘアーの落ち着いた感じの女の子だ。図書委員らしく、休み時間はだいたい本を読んでいるのだが、それがあらかた男性向けのライトノベルなのがちょっと変わっている。
こうなるとどうしても伊吹のことを思い出してしまうけど、萩原は別に孤立していたりしない。むしろ友達は多いくらいだ。そして現在、葉山の恋人でもあるらしい。最近知った。
因みにこの図書館、2階に自習用の机が大量にあるため、本を読む人は大抵そっちに行く。なのでおれたちは本来静かにするべき場所にいながら、普通の声量で話している。
「そういえば森山君、夏休み明けの実力テストは学年で5位だったわね」
「まあおれは夏休み、勉強くらいしかしてないからなあ」
2学期が始まってすぐ、国数英の3科目でテストがあった。で、普通に臨んだらそういう結果になったのだ。
「そうなの? 本当は彼女さんと遊んだりハッスルしたりしてたんでしょう?」
「……まあ、してたけどさ」
萩原は大人しい顔してこういうことを訊いてくるのだ。なんとなく、あの葉山と気が合うのがわからなくもない。
補足しておくと、萩原がおれと新菜について知っているのは、おれが話したからではない。というか、話すまでもなく知っていたのだ。それもそのはず、おれと新菜は毎日一緒に登下校しているのだから。入学したばかりの頃に新菜が腕を組んできたのは、おれと新菜が付き合っているということを周囲にアピールするためだったのだと、今ならわかる。女子って怖い。
「ていうか、そっちだって葉山とお楽しみしてたんじゃないの?」
「もちろんしてたわよ」
してたらしい。
「夜の湊はワイルドでカッコよかったわ……」
その光景を思い出しているのか、どこか恍惚としたような表情をする萩原。ところで。
「萩原、客だよ」
「あ」
一応おれたちはカウンター内での役割を分担している。萩原が本のバーコードを読み取る係で、おれがPCで打ち込む係だ。
「随分仲良さそうだな、2人とも」
「って、湊じゃない」
今来た客とは、話題の葉山湊だった。手に持っているのは三島由紀夫と中島敦……こいつこんなの読むんだ。
「そんなに親密に話せるなら、俺も図書委員になればよかったぜ」
「あら湊……妬いてるの?」
「別に」
葉山はそっぽを向いた。妬いてるな。
「ふーん? あ、ねえ湊。今日部活オフでしょ? 放課後、うち来ない?」
「……行く」
「やった、約束ね♪」
葉山は本を萩原に差し出した。萩原がそっちに視線を移すと、葉山は頬を緩めた。ニヤケ顔は彼女に見せないってことなんだろうけど、おれに見えてるよ。
「返却期限は1週間後でーす」
おれが定型句を言ったところで、午後の授業の予鈴が鳴った。当番はここまでだ。
「じゃ、教室戻りましょうか、湊」
「ああ」
萩原が葉山にべたつき、2人はカップルオーラ全開で図書館を去る。おれも同じ教室に戻るんですけど、距離開けた方がいいですかね?




