森山清磁の入部
仮入部期間が始まった。
おれは最初から野球部に入ると決めていたので、期間中の一週間、一日もかかさず野球部へ顔を出した。本当は吹奏楽部に興味がないでもなかったのだけれど、入る気はなかったので結局行かなかった。
「森山です、お願いします!」
外部コーチに告げて、バットを構える。近距離からトスされたボールを打って、すぐに構え直す。
まだ練習用のユニフォームも届いていない新入部員は、学校の敷地を出てランニングをした後、このようにティーバッティングをしている。外部コーチの高木さんは齢60だか70だかの男性で、打席に立つ度に名前を言えと指示を出している。部員の名前を覚えるために、毎年そうさせるのだそうだ。
「ありがとうございました!」
10球投げてもらって、交代。可動式のネットで作られたケージをすぐに出る。テンポの良さは、ティーバッティングで大事なものの一つだ。
額から滴る汗を拭っていると、同じ1年生の西水が話しかけてきた。
「森山、硬式バットなのによくあんな綺麗に打てんね。俺、重くて当てるだけで精一杯だわ」
「別に綺麗じゃないと思うけど、まあ春休み中も素振りはしてたしね」
そう返しながら、西水と距離をとって素振りを始める。練習中に何もしていない時間があると、なんとなくソワソワする。
「それで空き時間にも素振りをすると……偉いなあ森山は」
とか言って、西水も素振りを始めた。お前もやってんじゃん。
「池貝です、お願いします!」
達哉が打席に立つの見るともなしに見つつ、素振りを続ける。
夕日を浴びながらしばらくそうしていると、ここから高いネットとプールを挟んだところにある体育館から、「はい!」という女子の声が聞こえてきた。
──そういえば、仁藤はバスケ部に入ると言っていたな。
そんなことを思い出しながら、順番の巡ってきたおれは再びティーバッティング用のケージに入る。
「森山です、お願いします!」
──ああ、楽しい。
ボールをバットの芯で捉える感触を味わいながら、おれは頭の中でそう呟いた。