森山清磁の動揺
新菜が塾で最後の授業を受けた次の日の朝、おれが新菜の家に行くと、彼女は既に門扉の前に立っていた。
「おはよう、新菜」
「おはよう」
おれと新菜は横に並んで歩き出す。と、彼女はすぐに口を開いた。
「あのね、清磁くん。今日はその、報告しておきたいことがあって」
「ん、なに?」
「昨日……塾が終わった後で、外村君に告白されたの」
気付かないうちに、おれは足を止めていた。
「……清磁くん?」
「ああ……ごめん。それで?」
「もちろん断ったんだけど……一応、言っておこうと思って」
おれは2歩先にいた新菜に追いつき、再び歩みを進める。
「まあ、うん、そうだね。そういうことは確かに、言ってくれた方がいいかな」
「うん……伊吹君の時は告白される前に言えたけど、昨日はいきなりだったから……帰り道に、ちょっと張り詰めたような顔してるなとは思ったんだけど。……清磁くん?」
「……ん、ああ、ごめん」
「……どうしたの?」
「いや……別に」
いつの間にか、ボーッとしていたようだ。もう少し行くと歩道のない道に出るから、気をつけないと。
「…………」
新菜が、おれの顔色を窺うように視線を向けたが、おれはそれに気付かなかった。
*
学校について、階段の前。おれと新菜はいつもここで別れる。
「じゃあ清磁くん、また後でね」
「うん」
いつものように階段を上る新菜を見送ろうとして──
「……清磁くん?」
無意識のうちに、彼女の手首を掴んでいた。
「あ……ごめん。あの、また後で」
「うん……」
おれが手を離すと、新菜は怪訝そうな顔をしながらも自分の教室へ向かっていった。




