仁藤新菜の塾帰り
4月の半ばを過ぎたある日の夜。私は外村君と横断歩道を渡っていた。
「社会研究部? そんなのあるんだ」
「うん、毎週水曜日に社会の色んなことについて議論するの」
「へえ…………えっと、頭痛くなりそう」
今月から始まった頭翼鳴学院の高校講座は、受講生がたったの3人しかいなかった。つまり、私と田中君、外村君だ。そのうち田中君だけが塾を出てから反対方向に帰るので、校舎から分かれ道までの短い間、私は外村君と2人で歩くことになる。その間無言というのも気まずいので、ちょっとだけ会話する。今日は、最終的に入部することになった社会研究部についてだ。
「そんなことないよ。テーマはだいたい自分たちで選ぶし、先輩たちもわかりやすく話してくれるし」
「そうなんだ……あ、じゃあ、えっと」
「うん、また次の授業日にね」
分かれ道に至ったので、私たちはそこで話を止めた。
中学の頃は家まで清磁くんと一緒だったけど、流石に塾に来る用のない彼に送ってもらうことは、今はない。「くれぐれも気をつけて帰ってね」と再三言われたけど、そんなに大した距離ではないので、ダラダラして遅くなったりしないように心掛ければ大丈夫だろう。
「はあ……清磁くんが恋しいなあ」
何故だかそんな言葉が口をついて出る。最近塾の授業のある日はこんなことが多い。私も色々、溜まっているんだろうか。
そんなことを考えながら、家路を辿る。明日の朝、清磁くんと登校するのを楽しみにしながら。




