森山清磁の下校イベント
高校の入学式の翌日、今日から授業も始まった。まあ、午後はHRだったけど。
校門の両脇の桜を眺めながら、おれは新菜に訊く。
「委員会とか、決めた?」
今年、残念ながらおれたちは別々のクラスになった。しかもおれが2組で新菜は6組なので、HRの階も違う。2組は1階で、そのすぐ脇にある階段を上がった2階の4組・5組を隔てて、6組がある。
おれと同じく桜に目をやっていた新菜はこちらに振り返り、
「決めたよ。私は委員会には入ってなくて、クラスの進路係。清磁くんは?」
「おれは図書委員」
「うわ、似合うね」
おれは昔から読書が好きで、新菜と一緒に読むこともあるので、そのことは彼女も知っている。だから「似合う」と言ったのだろう。
「希望通りに決まってよかったよ。あとは、部活だな」
「そうだね。部活動紹介って、いつだっけ?」
「あー……わかんない。後で確認しよう」
春の陽気の中、おれたちは片道30分の、歩道のない通学路を歩く。王帝の駐輪場はやたらと広いため許可をとらなくても自転車通学できるのだけど、おれたちはあえて徒歩で通うことにしていた。もちろん理由は「一緒に行きたいから」だ。自転車だと横に並べないし。
因みに王帝高校は、おれの家と新菜の家を結んだほぼ直線上にある。朝はおれが新菜の家を経由して、学校に向かう形だ。
「あ、あと新菜、友達できた? おれは斜め前に葉山がいたから、困らなそうだけど」
「ちゃんとできたよ。富田瑠奈さんって子。こっちも席が斜め前だったの」
「そりゃよかった。まあ新菜なら心配はいらないと思ってたけど。……ところで新菜」
「ん? なに?」
無垢な表情で首を傾げる新菜に、おれは昇降口で落ち合ってから抱き続けていた疑問をぶつける。
「なんで今日は腕組んでるの?」
いつもはこんなことせず、手を繋ぐだけなのに。しかも肩の辺りにやたらとほっぺをすりすりしてくるし。
「うーん、やっぱり高校だと、色々あるかなーって」
「いやそれはあるだろうけど……つまり?」
「まあ、そのうちわかるよ」
なにそれ怖い。腕を組むことで何が起こるの。
「それとも、清磁くんは嫌?」
「嫌というか……」
可愛すぎて困る。それに、制服の生地が厚いから感じないけど、この体勢って……。
「なーに?」
「……嫌じゃないです」
「よろしい♪」
──なんか、小悪魔属性ついた?
その後25分間、おれたちは腕を組んだまま帰宅した。




