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森山清磁の合格


 県立高校の合格発表の日。うちの中学から王帝を受けたのはおれたちだけだったので、おれは新菜と2人、王帝高校の正門を入ってすぐ右手にある駐車場にいた。


「ああ、ドキドキする……」

「おれもちょっと、緊張してきたな」


 入試当日の手応えは2人ともバッチリだったし、塾で再現答案を採点してもらった時も、「まあ受かっただろう」と先生に言われた。それでも、やっぱりこういう瞬間は不安になるものだ。


「あっ、きたよ清磁くん」


 係の先生らしい男性が2人、校舎2階の渡り廊下の開け放たれた窓の向こうにやってくる。そしてそこから、窓枠に引っかけてあった掲示板の、布製らしい覆いをとる。


 そこには──


「ふぁ、よかった、あった……」


 出願を同時に行ったため連番だったおれと新菜の受験番号が、しっかりと印刷されていた。それを確認した新菜は、気の抜けたような声を出した。


「合格おめでとう、新菜。これで春からも同じ学び舎だ」

「うん……合格おめでとう、清磁くん。ああー、ホッとした」


 おれと新菜は入学用の資料を貰いに、昇降口の列に並ぶ。最後尾についたところで、丁度葉山と遭遇した。


「よう、落ちてたか?」

「その聞き方はどうかと思うな、葉山君」

「でもどうせ受かってたんだろ?」

「うん、私も清磁くんも」


 心なしか、新菜はいつもより饒舌だ。やはり嬉しいのだろう。


「その様子だと、葉山も受かってたみたいだね」

「当たり前だろ、舐めンな」


 図々しくも葉山はおれたちの前に並んだ。まあ、別にいいけど。


「そういえば、外村はどうだったんだろうな。森山、見たか?」

「いや、おれたちはけっこう早くから来てたけど、見てないな」

「後から来るんじゃない? ほら、早く来ると今みたいに混むから、ちょっとずらしてくるんだよ。家も遠いんでしょ?」

「それもそうだな」


 入学資料を受け取って、門を出る。するとそこには、藤原先輩と中川先輩が立っていた。


「新菜ちゃん、森山君、合格おめでとう」

「中川先輩! ありがとうございます」


 新菜が中川先輩のもとへ駆け寄る。おれは藤原先輩に軽く会釈してから、一応葉山に声をかけておく。


「あの人たち、中学の先輩だからちょっと話してくるよ。先帰ってていいよ」

「元々待つつもりなんかないぞ」


 葉山はさっさと帰っていった。そういうヤツだとわかってはいるけど、なんかちょっとむかつく。


「森山、合格おめでとう」

「ありがとうございます。先輩、わざわざそれ言うために来てくれたんですか? 今日って、高校の授業は休みですよね」

「いや、普通にあるよ。俺と帆波のクラスがたまたま自習だっただけ。帆波が早めにおめでとうを言いたいって言うから、ついてきてやった」

「そうなんですか。ありがとうございます」


 新菜はまだ中川先輩と話している。あの人のこと、好きなんだろうな。


「そういえば藤原先輩って、高校では何してるんですか? 部活とか」

「中学ん時とだいたい同じだ。正式に入ってる部活はない。呼ばれた時だけ手伝いにいってる」

「ああ、なんか安心しました。藤原先輩らしくて」

「だけど、今年の秋からは生徒会に入ると思う」

「あれ、そうなんですか。それはどうして──」


 おれがそう訊こうとすると、藤原先輩は中川先輩の方を顎でしゃくった。手を突っ込んだままやるこういうキザな仕草も、この人がやるとスマートに見える。


 中川先輩の方を見ると、2人はこんなことを話していた。


「え、じゃあバスケ辞めちゃったんですか」

「まあね。その代わり、今は生徒会やってるんだ。次の選挙では会長に立候補するつもりだから、その時は新菜ちゃんも、清き一票をよろしくね」

「はい、もちろん。応援します」


 へえ。中川先輩もかなりの優等生だって聞いてたけど、生徒会長やるんだ。凄いな。


「だから、帆波が俺に手伝ってほしいんだってさ」

「あ、なるほど。確かに藤原先輩、要領よさそうですもんね」

「そういうことだから、お前も一票よろしく」


 そう言って藤原先輩は中川先輩に「そろそろ戻るぞ」と耳打ちして、校舎に戻っていった。


「それじゃ新菜ちゃん、森山君、また春にね~!」


 中川先輩はおれたちに手を振ってから、藤原先輩に続く。天真爛漫って感じの中川先輩と、クールな藤原先輩……うん、いいコンビになりそうだ。


「それじゃ清磁くん、帰ろっか」

「そうだね。帰ったらお祝いだ」


 おれと新菜はいつものように手を繋いだ。ここの桜も、入学式の頃には咲いてるのかな。

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