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仁藤新菜の誘惑


「あ……もうこんな時間か」


 勉強をおしまいにして清磁くんに甘えていると、彼はふと時計を見上げてそう言った。


「本当だ……もうバイバイかあ……」


 私はボヤきながら体を起こす。清磁くんは床に座る時、いつも正座をする。私はその脚に頭を載せて、膝枕をしてもらてっていた。


「うん、そろそろ帰るよ」

「わかった。教えてくれてありがとね」

「どういたしまして」


 清磁くんは荷物をまとめ、コートを着て立ち上がる。私は彼を玄関まで見送って、そこで思い付いた。


「あ、ねえ清磁くん」

「ん、なに?」


 靴を履いて顔を上げた清磁くんを、私は思いきり抱き締めた。沓抜ぎの段差があるので、丁度彼の顔が私の胸の位置にくる。


「んむっ」

「外は雪が降ってるから、今のうちにあっためてあげるねー」


 数秒間経ってから、解放する。すると清磁くんは、見てすぐにわかるほど赤面していた。


「に、新菜、何を……」

「あったかくなったでしょ?」

「そりゃなったけど……」

「じゃ、よかったじゃない。ほら、暗くなる前にお帰りなさい、清磁くん」


 私がそう言うと、彼はまだ目を回しつつもとりあえず踵を返し、


「う、うん……それじゃ新菜、また明日」

「うん、また明日」


 清磁くんは扉を開けて帰っていった。


 それを確認して、私は──


「……はぁーっ…………!」


 ──その場にへたりこんだ。


 いつからか、私は清磁くんへのボディタッチを増やしていくようになった。もちろん、きっかけは夏のことだ。


 あれから私は、清磁くんとの夜を心待ちにしている。いや、それよりも前から期待してはいたのだけど、その気持ちに拍車がかかってしまったのだ。その結果、我慢できずに彼との触れ合いを求めてしまっている。


 とはいえ、そんなことをしているのは、それだけが理由ではない。清磁くんに意識してほしいというのもある。端的に言ってしまえば、私は清磁くんを誘惑していた。……すごいオトナな響きだ。


 注意していなくても、学校で男子がエッチな話をしているのは聞こえてくる。もちろん男子だけではない。たまに麻里奈たちと恋バナをすると、必ずといっていいほど「もうヤった!?」と訊かれる。


 そんな年頃なのに、私のカレシは淡白だ。そういうのは人それぞれとわかってはいるつもりだけど、私だけがしたがっているというのはなんか、恥ずかしい。それに、やっぱり好きな人には求めて欲しい。


 そんなわけで、最近の私は彼をドキドキさせようと色々試しているのだけど……これが、とても緊張する。だから私は今、こんな寒い廊下に座り込んでいるのだ。


 多分、それだけのことをしている甲斐はあると思う。帰り際の清磁くんの表情、あれは絶対に意識してくれている顔だった。私だってこの3年間で成長しているのだ。……まだBカップあるかないかくらいだけど。


「寒い……こたつ戻ろ……」


 私は立ち上がって、廊下を後にする。清磁くんが家に来る日、下着を選ぶのに時間をかけている成果がいつか出ることを願って。

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