森山清磁の勉強会
結局、おれはそれから半年の間、新菜と寝ることはなかった。もう気まずいなんてことはないし、ハグやキスも普通にしている。
ただ、それでは元通りなのかといえば、そんなこともない。
「わかんない……わかんないよぉ……もう嫌……うぅ……」
「じゃあ、いっそチャートを作っちゃおうか。折り返し問題ではまず、同じ角度・長さのところを徹底的に洗い出すこと。次に──」
月は1月。窓の外では雪が降っている。模試も全て終わり、残すは出願と受験本番のみ。今日は塾の授業がないため、おれは新菜の家のリビングで、彼女に数学の図形問題についてレクチャーしていた。
「それから、相似・合同の発見。それぞれ条件があるから──」
おれたちの志望校である県立王帝高校は、県内でもトップレベルの進学校だ。おれも新菜も相応の勉強はしてきているし、判定では合格圏内なのだけど……新菜は数学が足を引っ張っており、他4教科でカバーできない可能性がなくもないといったところ。なので、数学の中でも差のつきやすい出題について、おれが教えてやっている。因みに、おれは理科が得意だけど国語が好きで、苦手科目はとくにない。
「──はい、じゃあここまでにしようか」
「ああ疲れた……もう数学やだ……国語だけ勉強する……」
キリのいいところでテキストを閉じると、瞬時に新菜は気を抜きそして体の力を抜き、おれの方へしなだれかかってきた。おれの肩に腕を載せる形で、ぐでぇーっとしている。
「清磁くぅん……」
「はいはい、お疲れ様」
思いっきり体重を預けてくる新菜の頭を撫でてやると、彼女は心地よさそうに吐息を漏らす。
そして、その息が……おれの耳に直にかかる。
「…………っ」
「ねぇ、清磁くん……キス、したいな」
新菜はそのままおれの耳元で囁く。加えてその手は、おれの背中や脇腹の辺りをすりすりと擦っている。
夏以降、元通りでない部分というのが、これだ。なんというか、スキンシップが激しくなったとか、やけに甘い声を出してきたりとか……。
特に声。女の子の声ってこんなに変えられるのかってくらい、色っぽくなる。それを、今もそうだけど耳元で聞かせてくるものだから……やばい。
こうなってくると流石にもう、おれにも「したい」気持ちがわかってきた。かといって、すぐに実行できるわけでもない。
「わかった、いいよ……ん」
「んっ……」
抱き合ったまま口づけをする。それに対する新菜の反応が、妖艶なことこの上ない。
新菜のこれは、どんな心境の変化なんだろう……。




