森山清磁の先輩
「そういえば藤原先輩、恋人はいるんですか?」
3年生の卒業式直前の日曜日、野球部は引退した1つ上の先輩たちとのOB戦を行った。結果は双方の1勝1敗。例によって──というほど来てはいないけど、前と同じように藤原先輩は下級生チームに混じって登板した。この人が手を抜いたから……というより、遊び心のある投球をしたから最終的に引き分けたのだ。具体的には、フォークやシンカーなど、どちらかというとマイナーな変化球を投げてみたり。「初めて投げた」とか言う割にきちんと曲がるのだから凄い。
そしてクールダウンのキャッチボールが終わった後、いつかのようにおれは雑談を振ったのだ。
「今はいない。昨日別れたばっかりだよ」
「あ……なんかすいません」
悪い意味でタイムリーな話題だったようだ。頭を低くして謝っておく。
しかし藤原先輩は何でもないようにジャグからお茶を汲んでいる。
「別にいいよ。よくあることだし」
はあ……なるほど。確かにこの人かなりのイケメンだし、恋愛経験も豊富なんだろう。そうするとやはり、気になることがある。
「じゃあ先輩、今まで何人の人と付き合ったことがあるか、訊いていいですか?」
「付き合った人数でいうと、8人だな」
マジですか。中学生でそんな人いるんだ。
けど、「付き合った人数でいうと」って言い回しが気になる。違う人数があるのだろうか。
しかしおれが気を揉んでいる間に藤原先輩はお茶を飲みほし、
「じゃあ、俺もあっち行くから」
「あ、はい、ありがとうございました。あと、ご卒業おめでとうございます」
藤原先輩は背を向けたまま片手を挙げてそれに応え、休憩と片付けのどちらをやってるんだかわからない3年生の集団に溶け込んでいった。そこでも藤原先輩は先輩方に話しかけられている。やっぱり人望があるのだろう。
さて、グラウンド整備を手伝いに行こう。今度は達哉に呼ばれる前に。




