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森山清磁の初詣


「今年は、なんてお願いしたの?」


 パッと見ではそれとわからない、こぢんまりとした神社からの帰り道、おれは新菜に尋ねた。


「去年と同じ。清磁くんと、ずっと一緒にいられますようにって。あと、受験合格」

「それ、気が早すぎじゃない? まだあと1年あるよ?」


 1月1日の朝、おれと新菜は近所の小さな神社に初詣に来ていた。去年は電車に乗ってもっと大きなところへ行ったのだけど、ひどい混雑だったので今年は近場で済ませたのだ。


「受験自体はね。でも、受験生になるのはもうすぐだよ」

「ああ……それもそうだなあ。そういえばお母さんも、塾に行く気はあるのかって訊いてきたな」


 多いのは、2年生の終わりの3月くらいから通い始めるパターンらしい。塾側も、そのためのカリキュラムを用意しているのだとか。


「そうだ、塾。私は行こうと思ってるけど、清磁くんは?」

「おれも多分、行くことになるかな。お母さんにも勧められたし」


 母によると、やはり塾の授業を受けるだけで偏差値にだいぶ差が出るらしい。お金はあるから心配するなとも言われたし。


「そっか。やっぱり、あそこの頭翼鳴学院?」

「そうだね……新菜は?」


 おれたちの通う中学校から徒歩で行ける距離に、頭翼鳴学院の校舎のひとつがある。おれの母親が勤務しているのとは別の校舎だけど、高校受験に関してはある程度の実績があるし、近いし、そこに行くのが無難だと思う。


「私も、あそこかな……塾も同じだったら、一緒の時間が増えるね」


 新菜はそう言って、おれに笑顔を向けた。付き合い始めた当初の、恥じらいを含むものではない、とても自然な笑みだ。


「2月に体験入学のイベントがあるらしいから、一緒に行ってみようか」

「うん」


 2人で霜の降りた道を、手を繋いで歩く。神社から100mほど離れたところで不意に、視界の端に見知った姿を認めたらしい新菜が斜め後ろを振り返った。


「あ、日和だ……」


 おれたちが詣ったのと同じ神社の前に、厚着した女の子が1人いた。もう参拝を済ませた後なのか、神社と反対の車道側を向いて、何かを考え込むように佇んでいる。


「知ってる子?」

「うん、同じクラスの佐藤日和さん」


 言われてみれば、4組の教室で何度か見たことがある気がする。


「仲良いの?」

「良い方だと思うよ。1人でいることが多いけど、私とはちょくちょくお話してくれるし」

「へえ……なんか随分長い間あそこにいるけど、どうしたのかな」

「恋の悩みでもあるんじゃない? 神様の傍に長くいたいんだよ」


 そういうものだろうか。確かに、元日に女の子1人で初詣に来るということは、何かそれだけの想いがあるのかもしれない。


「彼女が何に悩んでるかわからないけど、うまくいくといいね」

「……浮気?」

「違うって」


 新菜は軽口をたたいて、先に歩き出してしまう。追いかけて手を差し出すと、すぐに繋ぎ直してくれた。

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