森山清磁のチラ見
中学校に入学して最初の週は、何事もなく過ぎていった。小学校時代から仲の良い連中に加えて新しい友達もできたし、新生活の滑り出しとしてはなかなか上出来だと思う。
「それでは次の時間は写真撮影ですので、チャイムが鳴る前に校庭に出ていてくださいね」
入学式の数日後、担任の小林先生に促され、おれたちはゾロゾロと動き出す。他のクラスも同じ時間に集合写真を撮るのか、廊下はかなり混雑していた。
おれは友達と雑談をしながら、人が捌けるのを教室の後方で待つ。
「森山君、撮る時なんかポーズ極めようぜ」
「ああ、許可出たらやろうか。どういうのにする?」
「これ」
中山は両腕を斜めに突き上げ、体を傾かせる無駄にダイナミックなポージングをした。
「ええ……それ絶対おかしいよ」
「一馬っていつもセンス悪いよな」
そう言って中山に苦言を呈したのは田中智輝、中山と同じ小学校だったヤツだ。おれが2人と知り合ったのは数日前、入学式の日だった。
別にグループというほど固定的ではないが、最近はこいつらと一緒にいることが多い。そして、
「いや、どうせならこうだろ」
と中山に悪ノリして、最早筆舌に尽くしがたい訳の分からないポーズをしているこいつが伊吹蒼人。おれとは小6の時のクラスメイトで、そこそこの付き合いのあったヤツだ。
「いや、普通にピースとかでよくない? 何でそんなアホっぽいカッコすんの」
「ダメだよ森山君そんなんじゃ」
「そうだぞ森山、男なら夢はでかくなきゃ」
「集合写真のポーズの何に夢を抱くんだよ……」
おれが中山と伊吹に意味不明な罵倒を受け、それに対して田中が冷静な突っ込みを入れる。まだ入学したてだけど、なんとなく、中学生らしい会話なんじゃないかなと思う。
そう思えるということは、おれは現状に満足しているということだろう。
おれは教室の反対側、前方の扉の辺りにいる女子生徒を横目で見る。
視線を感じたのか、こちらを振り返った仁藤新菜は、少しぎこちないながらも微笑んでくれた。おれはそれに小さく手を挙げることで返事をする。
春だな、と思った。教室が、暖かい。