仁藤新菜の友情
清磁くんの目から見ても、特にわかったことはないらしい。何度か昼休みに来てもらったけど、その成果はない。……まあ、私は楽しいんだけど。
でも、結衣と玖美子からの風当たりは日に日に強くなっている気がする。この間なんか、まだ私と仲良くしてくれている麻里奈にさえも、会話を露骨に終わらせるという方法で敵対していた。
意味もわからず、友情が壊れていく。私はこれ以上、こんな状況が続いてほしくない。特に結衣とは長い付き合いだし、理解できないことで関係を終わらせたくない。
だから私は、思い切って、結衣と玖美子と千春に、正面から訊いてみることにした。
*
「ねえ、結衣」
期末テストの理科と音楽(筆記)で新記録を出したのを吉兆と信じ、私は部活のない木曜日の放課後、まだぽつぽつと人の残っている2年4組の教室で、玖美子や千春と何やら話していた結衣に声をかけた。
すると結衣は一瞬、間を空けてから私を振り返る。
「……なに」
「あの……ちょっと、話がしたくて」
「ごめん、今日は用事があるから」
そう言って結衣は立ち去ろうとする──けれど、私に腕を掴まれて、立ち止まる。
「結衣、待って」
「……何なの」
仕方ない、といった風に、結衣は私と相対する。
私は単刀直入に訊くことにした。
「最近、私を……避けるのは、どうして? 私、結衣たちとは、仲良くしていたんだけど」
勢いに任せて言い切った。心臓が騒いでいる。もしこれで明確に「嫌いだから」なんて言われたら、どうしよう。
ところが結衣は、私の予想を上回る憤怒の表情を見せた。
「だったら……私の前でイチャついたりしないでよ!」
教室を越えて廊下まで響きそうな声で、結衣は叫ぶ。私のみならず、玖美子と千春も驚いている。
一方結衣はそんな私たちに構わず、怒声を浴びせ続ける。
「私の気持ちをわかってるんなら、あんなことしなくたっていいじゃない! 何で、あんな……私だって……」
彼女の目の端に涙が浮かんでいるのを見て、私は動揺した。結衣は、何を──
「私だって、森山君の……」
「ちょっと結衣、どうしたの、落ち着いて──」
「うるさい! 新菜に、私の──」
激昂する気持ちを抑えきれなくなったのか、結衣は開いた掌を掲げて──
「っ!?」
「早野、ごめん」
──清磁くんに、その手を掴まれた。
「気持ちは素直に嬉しいけど……。でも、これからも、新菜と友達でいてやってくれないか」
結衣は半分振り返って清磁くんと目を合わせ、
「……ごめん」
そう言い残し、教室を出て行った。
私たちはそれを見送ることしかできない。けど清磁くんは冷静に、今度は玖美子と千春に言う。
「事情はだいたいわかったけど……2人も、新菜と仲良くしてくれると、嬉しいな。……新菜、行こう」
清磁くんに手を引かれ、私は慌てて鞄を手に取る。
帰り際、
「玖美子、千春、また明日」
と言ったのは、彼女たちに届いただろうか。




