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仁藤新菜の昼休み


「あ、清磁くん来た」


 4時間目の体育の後、給食の時間をはさんで、昼休み。私は教卓の隣に置いてある椅子に座って、麻里奈とお喋りをしながら、清磁くんが来るのを待っていた。


「お待たせ、新菜」

「ううん。じゃあ、よろしくね」

「いつものことだけどお2人さん、仲良いよね。喧嘩とかするの?」


 私からヘアゴムを受け取って私の髪を梳く清磁くんを見て、麻里奈が言う。


「最近はたまにするよ」

「へぇ、するんだ」

「他愛のないことでだけどね」


 最近、やっと喧嘩をするようになった。例えば、クラスが別れたのもあって私以外の女の子と仲良さそうに話してたとか。そういうのを見かけた日には、「暑いから手、繋ぎたくない」みたいなことを言って八つ当たりしてしまう。すぐに弁解してくれるし、私の方も本気で浮気を疑ったりしているわけではないけど、それでもモヤモヤが心に留まってしまうことはある。まあ、そんなことがあるのはだいたい、毎月のアレの時だけなのだけど。


 だけど最近、私の月経周期が安定してきて、私がいつ苛々しているのか、お互いにわかるようになってきた。私が体調や機嫌の悪そうな時は、清磁くんもそのための心構えをしてくれる。私はそれに甘えて、虫の居所の悪い時は遠慮なく清磁くんに当たる。初めは私も清磁くんも、生理中のイラつきには戸惑っていたものの、ある時彼が「新菜って、怒った表情もけっこう可愛いんだよね」なんて言ってくれてからは、私たちは喧嘩を恐れなくなった。我ながら単純だと思う。


 そういう風にして、お互いに対する遠慮は徐々になくなっていき、今では前よりも距離が縮まったと思っている。因みに、清磁くんの方がきっかけで口論になることは殆どない。本当に優しい恋人に恵まれたな、と思う。


「よし、できた」


 清磁くんはそう言って、ポンと私の肩を叩いた。


 水曜日の4時間目は、今の時期は水泳の授業となっている。塩素で少しまとまりにくくなった髪を結んでもらうという口実で、清磁くんは毎週この時間に2年4組の教室に来てくれているのだ。


 これを頼んだ時は、ちょっとワガママ過ぎるかな、と思った。けれど、お昼の日光を浴びながら清磁くんに髪を撫でられるのが気持ち良くて、それが表情に出ていたらしく、「新菜が気持ち良さそうだから」と言って、彼は続けてくれている。もっとも、水泳の授業もあと数回で終わってしまうけど。


「それじゃ新菜、また来るね」

「うん、ありがとう、清磁くん」


 清磁くんは私に手を振って、自分の教室に戻っていった。


「いいなあ、新菜。あんな彼氏がいて」


 麻里奈が呟く。去年からの付き合いで、彼女には嫌味にならないことがわかっていたので、私はこう言った。


「いいでしょ、自慢の恋人だもん」

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