森山清磁の入学
まだまだ着慣れない制服に身を包んで、通い慣れない道を歩く。春らしいといえば春らしい、普通に晴れて普通に暖かい空気の中、おれは中学校生活への期待にワクワクしていた。
こういう時に胸に抱くのは「期待と不安」だと相場が決まっているけど、今回ばかりは期待がかなり大きい。とりあえず今日は1人で登校しているものの、小学校時代の友達は少なくないし、少年野球をやっていた関係で、おれが通っていなかった方の小学校から来る生徒の中にも、知り合いは何人かいる。
それに──
「よ、清磁」
「おう、達哉」
校門まで来たところで、小6
の頃のクラスメイトの池貝達哉に出くわした。こいつは少年野球のチームでも一緒だっため、そこそこ気心の知れたヤツだ。
「うわお前、学ラン似合うなー」
「そういう達哉は……微妙だね」
「うるせーよ。俺もそう思うけど」
そのまま連れだって1年生の昇降口に行く。既にけっこう人だかりができてるな。
「清磁、何組になると思う?」
「その予想皆するけど、意味なくない?」
「いいだろ別に、因みに俺は1組」
「おれは3組」
「結局予想してんじゃん」
おれたちは昇降口に到着したが、そこで足止めを食らった。クラス名簿はそこに掲示されているため、新入生が溜まるのだ。ええい、確認したヤツはさっさと行け。
「じゃあ俺見てくるわ」
「え、おい」
達哉は上手く人の割れ目を見つけて名簿の方へ行ってしまった。おれも続こうと思ったが、新たに人が増えてなかなか思うように進入できない。
人が減るまで待つか、と決め、3、4段の階段を昇って玄関に掲示された名簿を確認する達哉を眺める。自分の名前を見つけたのか、左右をキョロキョロと見回し、傍にいた男子生徒に声をかけている。あれは、雨野理玖かな。同じ小学校だったヤツだ。おれはそんなに交流なかったけど。
次第に人が減ってきたので、おれも自分のクラスをチェックしにいった。1組から順に見て……あ、達哉2組だ。予想外れてたな。
森山清磁の名を3組男子の下の方に発見して、もう一度1年3組のメンツをざっと見始めた時──
「森山くん」
おれのすぐ右から、おれを呼ぶ声がした。
振り向くと、はにかむような笑みを浮かべて、彼女は言った。
「同じクラスだね。よろしく、クラスメイトくん」
「そうみたいだね。よろしく、クラスメイトさん」
おれも照れ隠しの笑顔を作って言った。なるほど、そんな表情になるわけだ。