森山清磁の共通点
「あー、それ、えっとね……」
6月に入ったばかりのある休日、部活の都合が合ったので、おれはまた新菜と約束していた。今日は所謂お家デートだ。
何度か送っていったため場所のわかっている仁藤家にお邪魔して、おれは新菜と2人でリビングのソファに座っていた。新菜と新菜のお父さんしか住んでいないはずだけど、立派な一軒家だ。
新菜に出してもらったお茶を飲みつつ、おれたちは和やかに談笑していたが……おれは前の新菜の行動がなんだったのかどうしても気になって、結局直接尋ねたのだった。
すると新菜は、なんだか答えを渋っている。……何か言いにくいことなんだろうか。
「……言いたくないことなの?」
だったら無理に聞き出すのもどうかな……と思い、そう言ったが、新菜は、
「そういうわけじゃ、ないんだけど……」
と、煮え切らない様子。……本当になんなんだろう。
おれが間を繋ごうとお茶を口に含んだところで、新菜が切り出した。
「やっぱり言わないと気になるよね……あのね」
「別に嫌なら言わなくても──」
「違うの。ちょっと恥ずかしかっただけでね」
「恥ずかしい? だったら別に……」
「ううん、大丈夫。あのね、あの時私、初めて生理が来たの」
「せいり?」
「うん。中1で来るのって多分、平均くらいなんだけど……結衣とか麻里奈ちゃんとかはもう来てるって聞いてたから、どうすればいいか、訊いてたの」
「はあ……なるほどね。あー、そういえば、女子はそういうのあるよなぁ」
なんだ、全然悪いことじゃなかったな。よかった。
「ごめんね、心配かけちゃって」
「いや、大丈夫。伊吹のことがあったから、ちょっとだけ不安だったけど」
懸念が解消されたことで、おれたちの会話は弾んだ。例えば、こんな話をした。
「そういえば新菜のお父さんって、どんな仕事してんの?」
「雑誌の編集長なんだって」
「編集長? そりゃ凄いね、忙しそうだけど」
「うん、しかもライターも兼ねてるらしいし、取材も自分で行くことが多いんだって」
「そうなんだ……それは帰りが遅くなるわけだ。ところで、どんな雑誌作ってるの?」
「あ、ちょっと待っててね」
新菜はそう言い残し、リビング出て行った。戻ってきた時には、片手にいくつかの雑誌を持っていた。
「何種類かあるんだけど、今担当してるのはこれだって」
そう言って新菜は持ってきたうちの一冊、普段雑誌なんて読まないおれには何誌なのかわからないものをパラパラと開く……と、見覚えのある建物があった。
「あ、これ、おれのお母さんが働いてるところだ」
「え、そうなの? えっと、『頭翼鳴学院』……へえ、清磁くんのお母さん、塾の先生なんだ」
「うん、そこの教室長もやってるらしいよ」
「じゃあやっぱり清磁くんのお母さんも忙しいの?」
「そうだね、朝はそんなに早くないけど、帰ってくるのは0時くらい」
「へえ……そうなんだ」
新菜のお父さんが作った雑誌に、おれの母親の塾が載っていた。奇妙な縁を発見したおれたちは、その後もお喋りを満喫し、その日のお家デートを終わりにした。