森山清磁の安堵
「呼び出された?」
「うん……今日の、放課後」
中間試験を明日に控えた今日、登校するなりおれは新菜から相談を受けていた。曰く、体育館の裏に来るよう伊吹に言われたのだが、どうしようかと。
昨日、何故おれたちを尾けていたのか訊くと、伊吹は「もうしない」と言った。事情については後で説明するからそれで勘弁してくれとのことだった。
その伊吹が、今日の放課後に新菜を呼び出したという。……めちゃくちゃ怪しいな。
「とりあえず、言われた通りにしてみればいいんじゃないかな。おれもすぐ傍にいるようにするから」
「わかった……ありがと、清磁くん」
小林先生が来たので、新菜は自分の席に戻っていった。さて、放課後、どうなることやら。
*
体育館に近い方の東門で新菜を待っていると、思っていたよりもすぐに彼女は出てきた。
「お持たせ、清磁くん」
「ああ、いや……何の用だった?」
もったいぶっても仕方がない。おれは伊吹の用件を単刀直入に訊いた。
「……告白された」
「……やっぱりか」
あいつ、西と付き合ってたんじゃなかったのか? 何で新菜に……。
いや、それよりも。
「それで新菜、何て答えたの……?」
おれがそう問うと、新菜はキョトンとした顔で答えた。
「え? 『ごめんなさい』に決まってるじゃん。私には清磁くんがいるもの」
はぁ~、と、思わず安堵の息を吐く。それを見た新菜はおかしそうに笑った。
「清磁くん、不安だったの?」
「そりゃ不安にもなるって。まだ付き合い始めて2ヶ月だよ?」
「失礼だなぁ。私、ちゃんと清磁くんのことが好きだよ」
「……あ、ありがとう」
面と向かって言われて、少し照れる。そしておれが照れたのを見た新菜もまた、頬を染めた。
「あ、ごめん、つい……」
「いや、別に……」
……。やっぱり、この流れは、そうだよな。
「お、おれも新菜のこと、好きだよ」
「……うん、知ってる」
新菜は顔を赤くしたまま微笑んだ。ああ、可愛いな。
「でも伊吹、西のことはどうしたんだろう」
おれは気になっていたことを呟いた。別に質問のつもりじゃなかったのだけど、新菜はそれに答えてくれた。
「昨日、別れたんだって。……私に告白するからって」
「……そっか」
一応、その辺はちゃんとしてきたんだな。いや、別れたからいいってもんでもないだろうけど。
「ねえ清磁くん」
「ん、どうした?」
「……手、繋ごう?」
「ああ……」
そういえば、今日は東門からのルートで帰っているのだった。学校の東側は団地になっていて、この時間はそれほど人は多くない。
「そうだね、人も少ないし」
「……ん」
おれは新菜の右手を握った。
おれたちはそのまま手を繋ぎ、2人での安らかな時間を楽しみながら帰宅した。