杉原紗菜の抱負
いつも通り遅刻数分前に教室に着くと、2組の女子生徒の多くは梨々香のもとに集まっていた。
私は中学入学以来、梨々香をそれとなく避けている。だから、わざわざ自分であの群れに飛び込もうとは思わない。それに、昨日は隣の3組が今みたいな状況でうるさかったし、進んでまた騒がしい中に行きたくはない。
──それにしても、皆やけにテンション高いな。
昨日は3組、今日はうち。何かトレンドの話題でもあるのかと、向こうの話に耳を傾けてみると──
「じゃあ伊吹の方から梨々香にコクったってこと!?」
私は思わず、背筋を伸ばした。
──伊吹、蒼人……。
私が長い間片想いしていた男子。卒業式の日、何人かの友達と同じように私も告白しようとしていて、その相手が伊吹だった。でも結局勇気が出ず、告白しようかどうか迷っているうちに、流石にもう帰ってしまっただろうという時間になっていた。
失意と安堵を同時に抱えながら1人帰途につくと、もう見納めとなる小学校の校庭、その端っこに、私は梨々香と2人っきりでいる伊吹を見つけた。
最初は訳がわからなかった。いつか梨々香がコクると言っていた相手は森山清磁だったから、どういう状況なのか全く把握できなかった。でも2人が、心のどこかで通じあっているような表情で会話していたのを見て、なんとなく私は、そういうことか、と思ったのだった。
小学校を通して、いや、保育園からずっと仲の良かった梨々香。私は彼女に、知らない間に想い人をとられる形になったのだ。
実は半年ほど前にある事件があって、私と梨々香を含む仲良しグループは気まずくなっており、そのうちの1人、佐藤日和は、生来の控えめな性格もあって、最近は殆ど喋っていない。加えて私は梨々香にも複雑な思いを抱えることになってしまい、私は今、もやもやとした中学校生活を送っている。
──いつまで、こんな風にしてなくちゃいけないんだろう。
別に梨々香に嫌がらせをしようなんて思わない。伊吹に告白できなかった私にも非はあるのだし。それでも、やはり梨々香とまた仲良くしようとも思えない。
──高校行ったら、彼氏つくろう。
仕方なく私は、3年後に向けた決意を宿し、HRの開始を待つのだった。