仁藤新菜の報告
翌日、教室に足を踏み入れた瞬間、私は友達に囲まれて教室の隅に連行された。
「え、ちょっと、なに、なに──」
「新菜、私たちに何か言うことはありませんか?」
私の目前に立ちはだかった結衣が尋ねてくる。急にそんなこと言われても……。
「言うこと、えっと……おはよう?」
「あ、うんおはよう。でもそうじゃなくてさ」
「ほら、照れてないで白状しちゃいなよ!」
結衣の隣で、赤羽麻里奈というクラスメイトも言う。この子は中学からの友達だ。女子の中ではクラスの中心人物で、4人いる学級委員のうちの1人だ。
更に、私の横では鈴木玖美子が肘で私をつついてくる。彼女も別の小学校に通っていたけれど、割と一緒にいることが多い。
「さぁ新菜ちゃん、早くゲロって楽になっちゃいましょうよー!」
「えー、だから何の話?」
「昨日、新菜ちゃんと森山君が駅で会ってたという情報があるんですよ」
「えっ、そうなの?」
「私が見ました!」
玖美子ちゃんが挙手をして言う。私にもやっと情況が呑み込めてきた。
「あー……そっか、分かった。じゃあ、報告するけど……」
すると結衣と麻里奈ちゃんと玖美子ちゃんは一斉に静まりかえり、私の言うことに耳を澄ませている。……恥ずかしい。
「えっと……私は、森山清磁くんと、付き合ってます」
キャー! と教室中に響き渡る声で3人が叫んだ。当然、教室にいた人たちはこちらを振り向く。やめて、恥ずかしいから見ないでください。
「ね、いつから、いつから!?」
興奮さめやらぬ麻里奈ちゃんが握りこぶしを作りながら訊く。
「えっと、小学校の卒業式の日……」
「わ、定番のやつだ!」
「どこまでいった!? チューした!?」
今度は玖美子ちゃんが目を見開いて尋ねる。
「し、してない……」
「ウブー! じゃあ手は繋いだ!?」
「それは、うん」
『キャー!』
麻里奈ちゃんと玖美子ちゃんの歓声が重なった。既に教室にいるクラスメイトのうち半分くらいはこっちを見ている。ああ、もう。
そこで、1人冷静さを保っていたように見える結衣が訊いてきた。
「ねぇ新菜、何で教えてくれなかったの?」
「そうだよ新菜! みずくさいぞ新菜!」
「新菜!」
「新菜!」
好奇心を抑えきれなくなったのか、近くの席で聞き耳を立てていた吉澤さんも立ち上がって私たちのところに来た。麻里奈ちゃんとは部活が一緒で仲良いみたいだけど、私とはあんまり話したことないのに……。
「あのね、隠してたわけじゃなくて、なんというか、言い出すのが恥ずかしくて……」
「あ~、引っ込み思案な新菜らしいねぇ」
麻里奈ちゃんにそう納得された。私って引っ込み思案だと思われてるのかな。……自分ではそんなつもりないんだけど。
私が自らの行いを省みていると、清磁くんが後ろの扉から入ってきた。あっ、と私がそれに気付いてつい声をあげてしまった瞬間、
おめでとー!!
とクラス中の男子に囲まれた。やっぱりみんな聞いてたんだ。
「は? なに、なにが──」
そして清磁くんも、伊吹君や中山君、田中君をはじめ大勢の質問を受けることになった。……私のせいかな? ごめんね。
その後小林先生が来るまで、私と清磁くんが解放されることはなかった。