いかがわしきはギルティよ
いやーびっくりだよ。急に指名してくるんじゃないよまったく。このお嬢様本当に侮れないぞ。天然なのか!
「僕が犯人ってったって、僕じゃあチョコにコインを入れようがなくない?」
なんたって、家庭科室になんて近づいてすらないぞ。
「はい。私はいろいろ考えたんですけど、チョコにはコインが入っていないって結論に達しました!」
「あれ? この子もしかして天然?」
あ、やべ言葉に出ちゃった。しかし多分周囲も同意だっただろう、若菜の蹴りも飛んでこずだった。
「だって、私達にコインを拾った意識はないんですもの。それは滝井さんにも確認済みですので、残るは鳴子さんとなります」
「いやいや僕だって拾ってないって。仮に拾ってたとしたら普通に返すよ」
「いいえ、拾ったんです! そしてさっきまで、返すタイミングを失っていたんです!」
どうした恵美。なんかSっ気に目覚めてないか。
「……あー、言いたいこと分かった……」
瑠璃絵が頷く。ぶっちゃけ僕も気付いている。
「白庭台さんが言いたいことってのは、僕が小坂からチョコを貰ったことをいいことに、そこにコインが入っている演技をして、この状況を作り上げたってことでしょ?」
「おっしゃる通りです!」
いやいや、ないない。絶対ない。けど、これを否定するのってどうすればいいんだ? ああそうだ簡単だ。
「だから何回も言うけど、返すのにそんな回りくどいやり方する? 席が隣なんだから、普通に落ちてたよで返せばいいじゃん」
「それは、鳴子さんに罪悪感があったのでできなかったのです」
「罪悪感?」
「そ、そうです」なんか言葉に詰まったぞこの子。「だって、鳴子さんは、昨日女子更衣室でそのコインを拾ったんですから!」
「勘弁してくれ!」
お嬢さま申し訳ない、確かにここには六人しかいないような雰囲気あるけど、一応ここは昼休みの教室で周りに生徒もいるんだよう。そんな大声でそういうこと言われると僕の今後のスクールライフに関わってくるんだよう。
「僕が更衣室にコインわざわざ取りに行く理由ってある?」
「いえ、コインを取りに行ったわけじゃないと思います。更衣室にいってよからぬことをする一方で、無防備に落ちていた今西さんのコインも拾ってしまったと」
「それじゃ僕、変態じゃん!」
「はい、鳴子さんはお変態さんなんです!」
「いやそれ冤罪!」
「え? だって、小坂さんがさっき、鳴子さんはお変態さんだって」
「人を疑うことを知らないのか!」
思い切り若菜を睨みつけると、さすがに目を逸らして口笛を吹き出しやがる。あとで覚えとけよ……将棋でボコボコにしてやる。
「将棋部のえっちなご本のことも」
「すいません土下座しますんでもう許してください」
滝井の爆笑が聴こえる。ああ笑うよな、僕も逆ならそうする。
つまり、コインを入手した経路がやましいものだからこそ、心理的にすぐ返せなかったという推理か。論理的にどうか微妙なところだが、大きく外れてはないだろう。
だったら、反論も簡単だ。
「白庭台さん、そういうことなら僕はやってないって言えるよ」
「そ、そうなんですか?」
ちょっとこっちが強気に出てみると、先程の勢いが完全に失われた。確信する。白庭台恵美は僕らと違った世界で育ってきたタイプだ。人がいいというか、汚れを知らずに生きてきた感じあるぞ。
「というのも、僕は今日、今西からチョコの毒味を頼まれているからだ」
「あー。そうっすね」
ぽん、と手を打つ美和。忘れないでくれよな。
「横の今西も誰かにチョコをあげるらしくて、作ったんだって。それの余りで不味くないかどうかの確認をさせられたんだけどさ。チョコにコインが入っていた演技をするんなら、その時点でするよ」
「そ、そうでしたのね……ということは、私ったらなんてひどいことを鳴子さんに……」
急に涙目になる恵美。それはそれで気まずい。
「いやいや一郎が変態なのは間違いないから、エミちゃんがそう推理するのも無理ないよ! 悪いのは全部こいつ!」
若菜がフォローを入れるの、なんか腹立たしい。けど場合が場合だから許そう。
とはいえ、なんとか危機を免れた。よかった、ここで反論できなかったら変態コースだったよ。ホント良かったよ……
ん。ってことは、流れ的には僕がなにか推理しなければならないってことだよなあ。うわー参った。僕、これで二回目じゃん。
まあでも考えないことには始まらない。どうしてチョコの中にコインがあったのか……
ぐー。
と、誰かのお腹が鳴る音が聴こえた。
「……すまん」
滝井だった。女子じゃなくてある意味良かった。
「あれ、ご飯まだなんすか?」
「まだだよ。購買部で買ったはいいものの、小坂に拉致されたからな」
「あーごめん! 今取ってくるよ!」
びゅん、と教室を飛び出す若菜。すぐに滝井の昼食を持って戻ってきた。菓子パンがたくさんだ。
「悪いなー」
滝井としても、女子がひしめく中、自分では戻りたくなかったのだろう。今なら若菜もチョコ受け取ってもらえるんじゃなかろうか。まあ受け取ったところでなにがどうなるわけでもないけどさ。
……あ。
いまので一つ閃いた。で、多分顔に出た。
「ハイハイ思いついたんならさっさという」
若菜にせっつかれ、僕は二度目の推理披露の準備をした。
白庭台→一郎