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リメンバー・コインメモリー

「ここまで推理を出しては潰れていくの、なかなか壮観だな……」

 一分後、立ち直った滝井がしみじみと言った。そしてきりっと整った表情を作り、

「さて、今西さん。俺の推理をぶち破った責任、とってね?」

「う、怖いっす……」

 まあ、定番の流れだから仕方がない。

「で、でもウチだって思う所はあるんすよ?」

 おっ、早い。素晴らしい。それが正解であることを祈ろう。

「ウチはちょっと、根本の前提から見直そうと思うっす」

「根本、ですか……」

「そうっす白庭台サン。鳴子クンには話したことあるっすけど、このコインってもともと二枚あって、それを分け分けしてウチが一枚持ってるんす」

「ああ、幼い頃にどこかに引っ越していった親友と分けたんだっけ」

「そういうことっす。その親友はもう連絡取れないっすし、ミキちゃんって子なんで全然関係ないんすけど、ウチが言いたいのは、別にこれが世界で一枚だけのコインじゃないってことっす。()()()()()()()っす」

「……そーなの……」

「そうっすよ川端サン。レア度でいけば、横がギザギザの十円玉、ギザ十くらいの値打ちっすね」

 おー、だとしたら、まあ珍しいくらいか。それでもドル硬貨なんだから、日本人で持っていると考えればもう少しレアだとは思う。

「だから、ウチが落としたこの硬貨と、小坂サンのチョコからでてきたドル硬貨は別って考えてみたっす」

「あ、ありえなくはないか……」

 滝井が額を押さえる。僕としても同感だ。というか、そもそも。

「今西的にそれはいいのか? コイン、なくしたまんまなんだろ」

「そこはあんまり気にしてないっす。とりあえずもっときますけど、いつもふらっと帰ってくるんすよ」

 さっきもそれ言ってたな。えらい余裕だ。

「要は、この推理を前提とすれば、ウチがコインをなくしたことがどうでもよくなるんす。だとしたら、あとは家庭科室で混入してしまったことだけなんすけど。川端サンがさっき言った通り、ここまで誰も自分がやりましたって言わないってことはそれだけの理由があるってことっす。ウチは、()()()()()()()()()んじゃないかなって思うっす」

「わ、わ、私ですかぁ?」

 面食らいすぎてリアクションがおかしいことになってるぞお嬢様。今にも泡を吹いて倒れそうである。心配だ。

「そうっす。根拠は、小坂サンと白庭台サンがどっちも滝井クンにチョコを贈ろうとしたことっす。やっぱりライバルなわけじゃないっすか。で、小坂サンのチョコの方に、コインをこっそり入れたと」

「私がドル硬貨を偶然持ってたってことですよね?」

「そうっす。白庭台サンはイメージ論で申し訳ないっすけど、やっぱりお嬢様って感じするっす。財布に色んな国の硬貨が入っててもおかしくない感じするっす!」

 最後のは置いとくとしても、筋違いではないか。だが、これは……

「鳴子クン、なんか不服そうっすね。反論あるっすか?」

「うーん、ある」

「え、あるんすか」

「うん。白庭台さんが小坂のチョコにコインを入れる()()()()()()()

「え、そりゃライバル阻止……に……なるんすかね、この行為」

「ほら、自分で不安になるだろ」

 ということで、若菜がコイン入りのチョコを滝井にあげたとて、滝井からしたらなんにもならないのだ。仮に受け取って食べていたとしても、なんだこれ、で終わるだろう。

「あれじゃないかな」滝井が言う。「今西の中では、コイン入りのチョコ=今西のチョコ、みたいな前提があるんだろ。そりゃ所有者だもんな。だから無意識では、白庭台さんがコインを入れることで、小坂のチョコを今西のモノって思わせようとしたって推理があったと思うんだ。けど、今西のコインの事なんて白庭台さん知らないから、その推理は成り立たない。そのへんがフワフワしてただけだと思うな、俺は」

「ぐ、ぐぅ……ぐうの音もでないっすよー!」

 机に突っ伏す美和。残念だ。

「あと、私からもですけど」恵美が口を開く。「このコイン、拝見するに、当たり前ですけど鋳造年が入ってますよね。いくらコインが二枚あったとしても、ここが違えば今西さんも気が付くんじゃないでしょうか……だからこのコインは、正真正銘今西さんのものだと思うんです」

 どこか悲しげに見えるのは、人の推理を終わらせてしまうことに罪悪感を覚えているのだろうか。しかしこの子、絶対性格いいだろうな。

「うーん、やっぱ駄目っすかー。その場しのぎの思いつきじゃあボロが出るってことっすね。ま、これが帰ってきたのは確かってことでよしとするっす」

「よしとするのはいいんだけどな。コイン問題が解決しねー」

 僕がぼやくと、瑠璃絵が目を伏せて、

「それは……定番の流れでお願いしたいよね……」

 恵美の方をチラリと流した。おいおいそんなことしたらまたプレッシャー感じて挙動不審になっちゃうぞこの子、ただでさえそういうの慣れてないのに、と思ったものの。

「はい、私、いきます!」

 なんか雰囲気に毒されてしまったお嬢様がそこにいた。

「え、エミちゃん珍しく積極的ね……」

 若菜が意外そうなあたりレアな光景のようだ。

「私が推理するに、犯人は()()()()だと思います!」

 あ、やっぱ慣れてないなこの子。そんな性急に犯人を指摘しなくても……

「って、ゥ?」


今西→白庭台

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