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つまりは皆で論戦し

「思いつき、ですか……」

 お嬢様こと恵美が思案顔であごに手をやった。思えば彼女とはそんなに面識がないから、ちょっとやりにくさを感じる。同じクラスの美和・瑠璃絵や同じ部活の若菜とはやっぱり違った雰囲気もあるし。

「そうなんで、だよ」丁寧語になりかけた。「偶然に今西のコインが入っちゃったって考えるのは苦しいからさ」

「ってか、今西が最後にコインを見たのっていつなの……」

 だるそうに瑠璃絵が訊く。

「いつっていうと、自信ないっすけど、コインは財布に入れてるし……あ、昨日の昼休みは確実に見てるはずっすね。ウチ、弁当じゃなくて購買派だから財布を確認してるっす」

 なるほどね。思えばこの中で弁当持ってきてないのは美和だけだ。

「あーでもホントに確認したかなあ。自信なくなってきたっす」

 その気持ち、わからないでもない。

「あるはずという前提ですものね。なかったとしても気づかないかもしれないと」

「そうなんすよ」

 まあ、昼の時点ではたぶんあった、位にしておこう。

「で、午後に体育の授業があって、終わって着替えてからはなかったと思うんで、その頃だと思うんすけど……その間に盗られたとも考えにくいっすけどねえ」

「でも、そうなんじゃない?」

 若菜が頭を捻らせるが、そこは僕がさえぎった。

「いや、それは考えにくいと思うよ。お金をとらずにコインだけってのも変な話だし、取る理由がないじゃん」

「そうだけどさー」

 頬を膨らませる若菜。僕はあまり構わずに続ける。

「だからちょっと発想を変えてみるんだってば。要は、小坂がそのコインを()()()()()()()()()()()()()()()()|って考えてみたんだ」

 僕の前の女子四名が、揃って目を剥いた。

「いやいやいやいや、あたしそんなことやってないから! やる理由がないじゃん!」

「今西が小坂に入れてくれって頼んだとしたら?」

「はい?」

 今度は美和が奇声を上げた。何言ってんだこいつって顔をしている。

「いや、今西もチョコを渡そうとしてただろ。というか、してたんだよ」

「まあ、それは事実っすけど」

「で、もしその相手が滝井で、直接渡すのが恥ずかしいとするだろ。で、代わりに小坂に渡してもらうよう頼むと。でもそのまま小坂に頼んだら今西のものって認識されないじゃん。だから、コインを入れてみた」

「……滝井がチョコ食べて……コインに気づいて……今西に接触……という作戦?」

「ど、どうなのでしょう、それ……」

 瑠璃絵・恵美も困惑気味だ。

 自分でも、苦しい説だというのは分かっている。でも、不思議現象の筋道は通るのではなかろうか。もしこれが事実なら、そんなことやってないって二人が言うのも別におかしくはないだろうし。

「な、鳴子クン……」

 美和が引きつった顔で言う。

「それはさすがに穴ありすぎじゃないっすか?」

「そうかな?」

「まず、滝井クンってウチのコインの存在、多分()()()()と思うんすけど……」

 あ。そうかも。

「え、でも今西、それを隠したりはしてないだろ? 知ってる可能性もあるよ」

「……私、知らなかったけどね……同じクラスで……」

「川端お前は例外だ」

「わ、私も知りませんでした……」

「白庭台さんは知らなくても無理ないけど」

 心なしか瑠璃絵がむすっとしている。いやいや日頃の行いの差だよ?

「あと、小坂サンが玉砕して帰ってきた後、鳴子クンにそれを食べさせる意味って何です?」

「それは……まあ、ないけど。小坂も錯乱してたんだろ」

 僕の適当な一言に若菜のグーパンチが飛んできた。紙一重でかわす。

「あぶねっ」

「こ・の・非モテ思考! あんたの説、穴ぼこだらけだし女子の気持ちが全然わかってなーいっ!」

「いや、僕もこれが真実だって言いたいわけじゃないって。あくまで、これならコインについては筋が通るだろって話であぶなっ」

 またパンチが飛んできた。恵美が若菜を取り押さえてくれる。

「もーっ! わかったわよ! だったらあんたの説、完全否定するから!」

 言うや否や、びゅんと教室を飛び出していく。そして一分後、一人のイケメンを連れて戻ってきた。

「た、滝井……」

 時の人、滝井歌丸(うたまる)である。落語家みたいな名前をしながら、現実は三枚目の要素のない完璧な二枚目だ。こいつが芸能人にでもなったら、歌丸って名づける母親が増えるのだろうか。

「どゆことだこれ」

 混乱状態も無理もない滝井に、美和が手早く説明を行う。これがやっぱり非常に上手く、ほどなくして滝井は全て腑に落ちた、といった顔をした。

「で、なんで俺ここに呼ばれたの?」

 その一点だけは怪訝そうである。すかさず若菜が滝井に向く。

「滝井くん、あたし、ちゃんとあたしが滝井くんのこと好きですって告白……しながら……チョコ……渡したよね?」

 言いながら自分にダメージを負っている若菜。なんか申し訳ないな。

「お、おう。ごめんな、受け取ってやれなくて」

「うん……ほらぁ!」

 僕に向き直り、腹にグーパンチが三度飛んでくる。

「ぐふっ」

 あえて避けなかったら鳩尾に入ってむせた。

「あっごめん」

 いやそんな謝るなら最初からやるなよ……と感じたが、まあ若菜も毒気を削がれたみたいなのでよしとしよう。それに、僕の推理は完全に間違っていたわけだし。

「こっちこそごめん。僕の説はあり得ないね」

 あくまで美和のチョコを代行で渡した、という推理なので、若菜が自分の分として滝井に告白してしまったら根本が崩れる。

 しかし、だったらこれはどういうことなのだろうか。ふりだしに戻ってしまった。

 すると、ここで挙手が一つ。若菜だった。

「あのさ! あたしも一つ、思いついたことあるんだけど!」

「えー……」

 露骨にめんどくさそうにする瑠璃絵。ついでに言及すれば、俺ってまだいなきゃダメかなという雰囲気を出している滝井や、おどおどしすぎで挙動不審に見える恵美も含め、なんだか教室に不穏な空気が漂ってきた。


鳴子→小坂

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